デラウェア州の公益目的会社(Public Benefit Corporation、PBC)は、利益を追求する営利企業でありながら、定款に具体的な公益目的を掲げる会社形態です。取締役会は、株主の経済的利益だけでなく、その公益目的と、会社の行為によって重大な影響を受ける人々の利益も考慮します。つまり、使命を会社の意思決定に明確に位置づける仕組みですが、慈善団体になるわけでも、使命が常に利益に優先するわけでもありません。
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通常の会社と何が違う?
デラウェア州法上、PBCの取締役会は、次の3つの利益をバランスさせて会社を運営することが求められます。
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- 株主の経済的利益
- 会社の活動によって重大な影響を受ける人々にとっての最善の利益
- 定款に明記された具体的な公益目的
法律は、どの利益をどれだけ重視するかという固定の計算式や優先順位を定めていません。従来型のデラウェア州法人には、PBC法が定めるこの三者のバランス義務はありません。PBCでは、取締役会が財務上のリターンと使命やステークホルダーへの影響を並べて検討する法的な根拠が明示されます。ただし、個々の判断でどの利益が優先されるかまで保証されるものではありません。
AnthropicとOpenAI:同じPBCでも異なる監督体制
Anthropicが掲げる公益目的は、人類の長期的な利益のために高度なAIを責任ある形で開発・維持することです。同社はPBCの仕組みに加え、使命の実現を後押しする独立組織としてLong-Term Benefit Trust(長期的利益信託)を設けています。Anthropicによると、取締役は株主と同信託によって選任されます。
OpenAIの使命は、汎用人工知能(AGI)が全人類に利益をもたらすようにすることです。事業会社のOpenAI GroupはPBCですが、非営利組織のOpenAI Foundationが支配権を持ち、PBCの取締役を任命します。この非営利組織による統治は追加のガバナンス策であり、すべてのPBCに義務づけられた仕組みではありません。
Anthropicの体制も今後変わる可能性があります。Reutersは2026年9月、同社がIPO(新規株式公開)の可能性を前に、新たなFounder LLCを含むガバナンス体制を計画していると報じました。これは報道時点での計画であり、変更が完了した後の最終的な体制を示すものではありません。
上場企業にも採用例がある
デラウェア州のPBCとして上場した企業には、Lemonade、Vital Farms、Warby Parker、Allbirdsなどがあります。PBCの形態は株式公開と両立しますが、これらの企業が同じ使命や統治上の仕組みを持つことを意味するわけではありません。
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報告義務と執行の仕組み
デラウェア州法では、PBCは少なくとも2年に1度、株主に対し、定款に記載した公益をどのように推進し、求められる利益のバランスをどう図ったかを説明する報告書を提出しなければなりません。一方、この規定が定めるのは株主向けの報告義務です。PBCであることだけで、一般向けの情報公開や独立監査が一律に義務づけられるわけではありません。
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また、公益目的を考慮する義務があるからといって、影響を受ける人々がそのことだけを理由に取締役を訴えられるわけではありません。デラウェア州法は、公益目的に関係する個人の利益を理由として、取締役がその個人に直接義務を負うものではないとしています。一定の要件を満たす株主訴訟が執行手段になり得ますが、訴えが認められる範囲は適用される法規や個別の事実関係によります。
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PBCと「B Corp認証」は別物
PBCは州法に基づく会社の法的形態です。一方、認証Bコーポレーション(Certified B Corp)は、非営利団体B Labが運営する民間の認証制度です。PBCでも認証を取得していない会社はあり、認証BコーポレーションでもPBCではない会社があります。
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2026年の会社売却をめぐる判断で示されたこと
デラウェア州衡平法裁判所は2026年7月29日、*Drakes Landing Associates, L.P. v. Tilden Park Capital Management, L.P.*で、支配権が移る取引におけるPBC取締役の義務を初めて判断しました。裁判所は、通常の会社売却で取締役に売却価格の最大化を求める「Revlonルール」は、PBCには同じ形では適用されないとしました。PBCの取締役には、法律で定められた複数の利益をバランスさせる義務があるためです。裁判所は、株主側が法定のセーフハーバーを覆せなかったとして、当該訴訟の請求を退けました。
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この判断は、売却価格が重要でなくなったことや、PBCの売却がすべて訴訟の対象外になることを意味しません。今回がこの論点を扱った最初の判断であり、別の事案で裁判所が取締役会の手続きや利益のバランスをどう評価するかには、なお不確かな部分が残ります。
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