リスクは「一つの災害」ではなく、連鎖するショック
懸念されるのは、エルニーニョによる雨不足と高温が、農業用水・生活用水の不足、火災、収穫減、食料価格の上昇へと波及することです。とりわけ南アジアと東南アジアでは、燃料・肥料の高コストがすでに農業経営を圧迫しており、気象ショックが重なれば生産と輸入の両面で負担が増します。
米海洋大気局(NOAA)の気候予測センターは、エルニーニョが強まりつつあり、2026~27年の北半球の秋・冬に「非常に強い」現象となる確率は90%超としています。
1 ただし、これは各地域での干ばつや不作を保証する予報ではなく、影響が起きる可能性が平年より高まるという意味です。
水不足、火災、越境する煙害
降雨が減り暑さが続けば、貯水池や土壌の水分が減少し、作付けの遅れや収量低下につながります。乾燥は森林火災、とりわけ泥炭地火災のリスクも高めます。インドネシアで大規模な火災が起きれば、煙霧(ヘイズ)がマレーシアやシンガポールにも及び、呼吸器への健康被害のほか、交通・物流や労働生産性にも影響し得ます。
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コメとパーム油が受ける圧力
コメは、インド、ベトナム、タイという主要輸出国が、暑さや降雨変動の影響を受けやすい地域に集中しているため、特に注目されます。田植え、開花、登熟の重要な時期に水不足や高温が重なれば、生産量が減る可能性があります。各国が国内供給を優先して輸出を抑えれば、国際市場の需給はさらに引き締まります。
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インドネシアとマレーシアでは、干ばつと高温が油ヤシの果実収量を押し下げるおそれがあります。火災や物流の混乱も加われば、パーム油の供給不安は大きくなります。
食料価格はどう波及するのか
コメ、食用油などの供給が細れば、産地では価格が上がり、食料を輸入に頼る国では輸入費用が増えます。国連世界食糧計画(WFP)は、強力なエルニーニョによって2027年末までに急性食料不安に直面する人が約4,900万人増え、45カ国で計2億7,400万人に達する可能性があると見積もっています。
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打撃が大きいのは、支出に占める食費の割合が高く、価格上昇を吸収する貯蓄や制度的支援が限られる低所得世帯です。
燃料・肥料高が被害を増幅
紛争に伴う燃料・肥料の供給混乱は、灌漑、農業機械、輸送、施肥にかかるコストを押し上げます。干ばつで収量が落ちる局面で、農家が作付面積や肥料投入を減らさざるを得なくなれば、気象要因とコスト要因は互いに被害を増幅させます。
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食料インフレ、農村所得の減少、煙害による健康被害に加え、補助金・輸入・災害対応の財政負担も増え得ます。リスク分析では、インド、インドネシア、フィリピンで、気候起因の食料ショックが既存の食料安全保障上の不安や社会不安リスクを強める可能性が指摘されています。ただし、社会不安はあくまでリスクであり、必然ではありません。
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「数兆ドル損失」は今回の確定予測ではない
世界経済の損失が「数兆ドル規模」になり得るという議論は、過去の大規模事象を基にした長期・世界全体の比較としてはあり得ます。ある分析は、1982~83年の後の5年間の累積世界所得損失を4兆1,000億ドル、1997~98年のケースを5兆7,000億ドルと推計しています。
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ただし、これらを2026~27年の損失額の予測値とみなすことはできません。被害の規模は、実際の降雨・気温の推移、各国の備蓄・輸出政策、水管理、火災対策、支援策によって大きく変わります。
予報を読む際の注意点
前提には二つ、慎重に見るべき点があります。
- NOAAが示しているのは、2026年末までエルニーニョが強まり、北半球の秋・冬に非常に強くなる確率が90%超という見通しです。
1 12月に必ずピークとなること、あるいは2027年3月までの継続を確定的に保証するものではありません。
- 世界の食料商品価格が15%超上昇するという、堅固な公式予測は確認できません。典型的なエルニーニョでは、国際通貨基金(IMF)の推計として、世界の食料価格が1年以内に約5%上昇するとの見方があります。一方、記録級の事象では影響がそれを大きく上回る可能性はあるものの、上昇率を現時点で断定することはできません。
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要するに、最大の警戒点は「記録更新」そのものより、干ばつ・水不足・火災・農業コスト高・輸出制限が同時に起こる連鎖です。その連鎖をどこまで抑えられるかは、今後の気象だけでなく、各国の水・食料・物流対策にも左右されます。