中国が消費者向けAIの利用で米国を先行している最大の理由は、必ずしもAIモデルそのものの性能ではない。AIをどこで、どのように使わせるか――つまり配信と取引への接続にある。
モルガン・スタンレーのAlphaWise調査では、個人目的でAIを少なくとも週1回使う回答者の割合は、中国で80%、米国で54%だった。差は26ポイントである。
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ただし、これは両国の全人口を対象にした利用率ではなく、あくまで調査回答者の結果だ。それでも、中国ではAIが日常的なデジタル行動へ急速に入り込んでいることを示す指標といえる。
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AIを「新しい目的地」にしない
米国では、ユーザーがAIチャットボットを独立したサービスとして開き、質問する使い方が目立つ。一方、中国の大手プラットフォームは、買い物、検索、メッセージ、動画・娯楽、旅行、地図、決済といった既存サービスの中に、文章・画像・動画を扱う生成AIを組み込んでいる。
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この違いは大きい。ユーザーは「AIを使おう」と新たな習慣を作らなくても、普段のアプリで商品を探す、店を選ぶ、移動経路を調べる、旅行を予約する、といった用事の流れでAIに触れられる。
さらに重要なのは、回答を得るだけでなく、意図から実行までを一つのサービス内で進められる点だ。AIとの対話が商品検索、加盟店の選択、予約、決済へつながれば、アプリを何度も切り替える必要がない。中国で発達してきた「スーパーアプリ」は、この摩擦を小さくする土台になっている。
QwenとWeChatが示す2つの配信力
アリババのAIアシスタント「Qwen(通義千問)」は、エコシステムを活用する代表例だ。QuestMobileのデータを引用した報道によると、2026年7月の月間アクティブユーザー数は1億6100万人。QwenはアリババのEC、旅行予約、地図、決済サービスとつながり、会話への返答にとどまらず、実際のタスク実行を目指している。
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アリババはQwenに、フードデリバリー注文や旅行予約をチャット画面内で行える機能を追加した。Taobao(淘宝)、Alipay(支付宝)、旅行関連サービスなどを統合し、ユーザーはアプリを移動せずに手続きを完結できる設計だ。
テンセントにとっての強みはWeChat(微信)である。モルガン・スタンレーは、ソーシャルなつながり、ミニプログラム、決済を併せ持つWeChatを、タスク実行を支えるエコシステムとして位置づける。AI機能を広く配信し、加盟店や取引につなげられるからだ。
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ここから分かるのは、消費者への普及と最先端モデルの優位は同じ競争ではないということだ。高性能なモデルは重要だが、多くの人が毎日開くサービス網と結び付いていれば、反復利用や購買行動への距離は格段に短くなる。
生成AI利用者は1年で約2.4倍に
中国の生成AI利用者は、2024年12月の約2億4900万人から、2025年12月には6億200万人へ増えた。中国インターネット情報センター(CNNIC)の公表値では、前年比成長率は141.7%、2025年末の生成AI普及率は**42.8%**だった。
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この数字だけで、すべての利用者が同じ頻度・深さでAIを使っていることや、中国の基盤モデルが一律に優れていることまでは示せない。とはいえ、スマートフォン、モバイル決済、統合型プラットフォームを通じ、AIが幅広い消費者層へ到達していることはうかがえる。
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収益の中心は「サブスク」より広告と取引手数料
モルガン・スタンレーは、中国の消費者向けAIで収益化できる市場規模が2030年までに約2940億元、概算で3000億元に近づくと試算する。そのうち約**99%**は、消費者向けサブスクリプションではなく、広告と取引手数料から生じるとみる。
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想定されるビジネスモデルは明快だ。AIが消費者の商品発見や比較、意思決定を助け、プラットフォームは広告出稿やAI経由の取引に対する手数料によって収益を得る。価値の中心は、チャットボットの利用料を取ることより、消費者の「買いたい・予約したい」という意図を、完了した取引へ変える導線を握ることにある。
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モルガン・スタンレーは、WeChatを持つテンセントを消費者向けAIの明確な受益者とし、アリババについてはフルスタックAI企業として選好している。また、美団(Meituan)、オンライン旅行プラットフォーム、BOSS直聘のように取引が多い垂直型プラットフォームも恩恵を受けうると指摘する。
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消費者利用の優位は、最先端モデルの優位とは別
中国での利用拡大を、中国製モデルが能力面で一貫して米国勢を上回っている証拠と読むべきではない。モルガン・スタンレー分析を報じた記事では、能力面では米国モデルが先行しているとされる。スタンフォード大学の「AI Index 2026」でも、2025年初め以降、米中の有力モデルは首位を入れ替える、または差を縮めてきたとされ、2026年3月時点ではAnthropicの最上位モデルが**2.7%**差で首位だった。
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製品戦略では、この区別が重要になる。ベンチマークの成績はAIが何をできるかを左右する。一方、消費者向けの価値と収益化は、配信力、利用文脈、信頼、そして提案から決済までの摩擦の少ない経路にも左右される。中国のスーパーアプリ型は、後者の条件と親和性が高い。
消費者AIの拡大と、技術自立の政策
中国の消費者向けAI展開は、海外技術への依存を抑える長期戦略とも並行している。第15次5カ年計画は海外の科学技術への依存低減を掲げ、AIと半導体を戦略分野として重視している。
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中国企業は、西側企業が主導する技術への依存を減らすため、RISC-Vのようなオープン標準の代替技術も追求している。ロイターは、誰でも利用・研究・改変・共有できるオープン標準アーキテクチャは、米企業の独自ソフトウェアやツールほど制限しやすくないと指摘している。
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つまり、中国では二つの動きが同時に進んでいる。足元では消費者プラットフォームを通じてAIを素早く普及させること。長期ではAIと半導体の基盤を国内で強化することだ。
結論:勝つのは「最も目立つチャットボット」とは限らない
今回の調査が示すのは、消費者向けAIで強いのは、必ずしも単体アプリとして最も注目を集めるチャットボットではない、という点だ。人々がすでに使っているサービスの中に現れ、現実の用事を最後まで片付けられるAIが優位になりうる。
中国80%、米国54%という週次利用の差は、モデル能力の単純比較というより、配信力と取引統合の強さを映したものと考えるのが妥当だ。AI企業にとっての教訓は明確である。モデル品質は不可欠だが、持続的な消費者利用と収益化には、プロンプトから役に立つ行動、そして取引へ至る簡単な道筋も必要になる。
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