ASML株の2026年9月14日の約7%下落は、決算の下振れや顧客喪失といった同社固有の悪材料というより、AI投資の長期成長シナリオが見直されたことによる心理的な売りとみられます。
Anthropicのダリオ・アモデイCEOが、最先端AIの開発ペースを落とすよう訴え、OpenAIのサム・アルトマンCEOとイーロン・マスク氏も同調しました。これを受け市場では、AI開発が減速すれば、将来的にデータセンターへの設備投資、先端半導体の生産、そして半導体製造装置の需要まで弱まるのではないかとの懸念が広がりました。
2
9
なぜASMLが売られたのか
ASMLは、最先端チップの製造に不可欠なEUV(極端紫外線)露光装置を手がける企業です。そのため株価には、AI向けの計算能力需要が長期にわたって高成長を続けるという期待が強く織り込まれてきました。
AIの開発・導入ペースが鈍れば、GPUやメモリー、サーバーだけでなく、それらを生産するための製造装置への投資も抑制され得ます。9月14日の売りは、足元のASMLの受注や操業悪化を反映したものではなく、こうしたAI需要の最終到達点に対する不確実性を株価が織り込み直した動きといえます。
2
9
半導体株から世界市場へ波及
売りはASMLにとどまらず、AIインフラに関わる半導体メーカーや装置・サーバー関連企業に広がりました。米国株式市場は下落して取引を終え、S&P 500は0.48%安、ナスダック総合指数は0.56%安、ダウ工業株30種平均は0.29%安でした。ロイターは、エヌビディアなど半導体株の下落が市場を圧迫したと報じています。
3
半導体セクターへの売りが特に強かったのは、このセクターの評価が、AI向け設備投資の急拡大が持続するとの前提に大きく依存しているためです。
4 CNBCによると、エヌビディアは約3%下落し、マイクロン、インテル、マーベル・テクノロジー、アプライド・マテリアルズはそれぞれ4%超下落しました。
8
一方、AIの安全性懸念を背景に企業の防衛投資が増えるとの見方から、サイバーセキュリティ関連株には買いが入る場面もありました。
9
ASMLの実需はなお強い
株価が急落した一方で、ASMLが示している事業の需給見通しは、少なくとも現時点では強さを保っています。
JPMorganはASMLのロジャー・ダッセンCFOとの面談後、AI需要は「非常に非常に強い」との認識を示しました。ASMLは2028年にEUV装置を110台超生産する方法を検討しており、2027年納入分はほぼ完売しているとされています。
1 EUV装置は生産能力そのものが制約になりやすく、需要の有無よりも供給力が重要なボトルネックになっています。
2026年第2四半期の実績も堅調でした。ASMLは売上高93億ユーロ、粗利益率54%、純利益29億ユーロを計上し、2026年通期の売上高見通しを従来の360億〜400億ユーロから430億〜450億ユーロへ引き上げました。
12
5 また、2027年と2028年にそれぞれ約30%の生産能力増強を計画しています。
5
テキサス州でイーロン・マスク氏が計画する半導体生産施設「Terafab」向けの需要についても、ASMLは2027〜2028年の能力拡張計画に織り込み済みだと説明しています。
6
強気派と慎重派の分かれ目
強気派にとっては、先端ロジック半導体とメモリーのAI主導の拡大、EUV装置の供給制約、そして2027〜2028年にかけた受注の可視性がASMLの支えです。
ただし、市場が警戒するのは技術優位性の消失ではなく、期待値の高さです。AI関連支出の予想がわずかに下がるだけでも、将来の成長を前提に高く評価されてきた株式は、株価収益率(PER)の低下を通じて大きく売られやすくなります。
つまり今回の下落は、ASMLの事業が急に悪化したという判断よりも、AI投資が永続的に加速するとの前提に投資家がどこまで賭けられるかを問い直す動きでした。
次の確認材料は10月14日の第3四半期決算
ASMLは第3四半期について、売上高110億〜120億ユーロ、粗利益率55〜57%を見込んでいます。
12
このレンジを達成または上回り、2027〜2028年のEUV生産能力・受注見通しが維持されれば、9月14日の急落は主としてバリュエーションとリスクプレミアムの調整だったとの見方が強まりそうです。
反対に、受注の弱さ、顧客への納入遅延、Low-NAおよびHigh-NA EUVの需要見通し低下、生産能力拡張計画の縮小などがあれば、AI顧客が実際に投資ペースを落としている兆候として、より重く受け止められるでしょう。
要するに、ASML株の急落が映したのは現時点の業績悪化ではなく、AI需要の長期像をめぐる不安です。その不安が実需の減速へ変わるのか、それとも市場心理の揺れにとどまるのかは、今後の受注と決算が判断材料になります。