量子コンピューターの性能を語るとき、「量子ビット数」や「ゲート忠実度」がよく使われます。しかし、それだけでは、実際にどれほど大きな計算を最後まで正確に実行できるのかは分かりません。
そこでSandia国立研究所を中心とする研究チームが提案したのが、QUOPS(Quantum Universal Operations Performance System)です。Quantinuumはハードウェア実証に、NVIDIAはCUDA-Q上のオープンソース実装に参加しました。QUOPSは、量子コンピューターが信頼して完走できる汎用量子計算の規模と、それを処理する速度を同時に測ろうとするベンチマークです。
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QUOPSが測る2つの値
QUOPSは、物理量子ビットだけでなく、誤り訂正で構成する論理量子ビットにも適用できる、アーキテクチャ非依存の枠組みです。特定のアルゴリズムを一つだけ走らせるのではなく、形状や規模を変えたランダム化された計算万能な量子回路を、各システムで実行します。測定した忠実度・偏極度に基づく基準を満たした回路だけが、成功と見なされます。
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そこから得られる主な指標は次の2つです。
- Q(QUOPSスコア):基準を満たして実行できた、最大の量子回路規模。単位は量子操作数です。
- ω(QUOPSレート):成功した量子操作をどれだけの実効速度で処理できるか。QUOPS毎秒で表します。
重要なのは、回路を大きくできる能力と、速く処理する能力は同じではない点です。比較的小さい計算を高速に繰り返せる装置もあれば、速度は相対的に低くても、より大規模な回路を信頼して実行できる装置もあります。QUOPSは、このトレードオフを一つの数値だけで単純化せず、両面から捉えることを目指します。
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チップ単体ではなく「システム全体」を評価する
量子回路を実行する際には、プロセッサーの公称性能以外にも多くの要因が関わります。回路のコンパイル、量子ビット間の経路選択、接続トポロジー、制御、測定、そしてノイズです。
例えば、必要な二つの量子ビットが直接つながっていなければ、状態を移動させる追加操作が必要になり、処理時間と誤差の蓄積が増えることがあります。QUOPSでは、こうした実行時のコストをハードウェア仕様から切り離すのではなく、最終的なスコアに反映させます。
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したがってQUOPSは、「何量子ビットあるか」を競うランキングというより、完全な量子計算システムが信頼できる計算能力の限界線をどこに持つかを可視化する試みです。
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Willow、Boston、Heliosで見えた性能の交換条件
初期の比較では、Googleの超伝導方式プロセッサーWillow、IBMの超伝導方式プロセッサーBoston、Quantinuumのイオントラップ方式プロセッサーHeliosが評価されました。
結果は明確なトレードオフを示しています。
- Google WillowとIBM Bostonは、より高い量子操作レートを示しました。
- Quantinuum Heliosは、基準を満たすより大きな量子回路を実行しました。
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この差は、超伝導ゲートの高速さが処理レートで有利になりやすい一方、Heliosの高精度と実質的な全結合性が経路選択の負担を抑えるため、と解釈されています。追加操作が少なければ、それだけ誤差の蓄積を抑えられ、大きな回路を実行できる可能性が高まります。
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報告された物理量子ビットでのQスコアは、Helios-1が1,504、Willowが216、IBM Bostonが204でした。ただし、これはHeliosがあらゆる用途で一律に優れていることを意味しません。Qは「どこまで大きな回路を信頼して動かせるか」を、ωは「どれだけ速く処理できるか」を表すため、用途に応じて重視すべき点は変わります。
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RSA-2048やFeMocoの計算には、なお約10万倍の差
プレプリントでは、RSA-2048の素因数分解には約2.5×10⁸ QUOPS、高精度なFeMoco(窒素固定酵素の活性中心)のエネルギー計算には約3.4×10⁸ QUOPSが必要になると推定されています。
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この推定を基準にすると、現行の物理量子ビットベースのシステムは、こうした難度の高い用途に必要な規模から約5桁、すなわちおよそ10万倍離れています。
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ただし、これは「いつRSA-2048を解けるようになるか」を示す予定表ではありません。必要資源の見積もりは、採用するアルゴリズム、誤り訂正コード、アーキテクチャなどの仮定に依存します。特定の機械が特定の時期にこれらの計算を実行できる、という予測ではありません。
論理量子ビットと耐故障性にも適用
QUOPSは、Helios-1上で最大8論理量子ビットを用いた耐故障性の実証にも適用されました。Sandiaはこれを、耐故障性プロセッサーに対する初のベンチマークだと説明しています。
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意義は、QUOPSが現在のノイズの多い物理量子ビット機だけの指標ではないことです。誤り訂正を取り入れた将来の論理量子ビット機でも、同じ基本的な考え方で性能を追跡できます。
もっとも、この実証だけで耐故障性システムが既に物理量子ビット機をあらゆる面で上回ったとは言えません。価値はむしろ、より大規模な論理量子ビット機へ移行する過程を、共通の尺度で比較できる道筋をつくった点にあります。
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数字をどう受け止めるべきか
QUOPSは、量子コンピューターを「量子ビットが何個あるか」から、「どれだけの信頼できる汎用計算を完了できるか」へと評価軸を移す提案です。初期比較は、接続性と精度が実行可能な回路規模を押し上げうる一方、高速なゲート実装は処理レートを高めうることを示しました。
一方で、今回の研究はまだ査読を受けていないarXivのプレプリントです。ベンチマークの定義、成功判定の閾値、大規模アプリケーションへの外挿はいずれも暫定的なものとして扱い、独立した再現と査読による検証を待つ必要があります。
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