欧州で進むエネルギー高は、単なる市況の変動ではなく、供給と安全保障を巡るショックだ。中東情勢を受けたホルムズ海峡の航行・物流の混乱が、原油と液化天然ガス(LNG)の世界的な流れを細らせた。そこに、冬を前にしたEUのガス貯蔵量の低さと、ロシア産ガスからの段階的な離脱が重なっている。
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価格高騰の主因は何か
- ホルムズ海峡の閉鎖・混乱により、海上輸送される世界の原油は約15%、LNGは約20%が影響を受けたとされる。ECBは、約2,000万バレル/日、世界の石油供給のおよそ5分の1に当たる輸送が中断したと推計している。
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- 供給不安は原油・LNGそのものの価格だけでなく、タンカー運賃、保険料、輸送遅延リスクを上乗せする。結果として、ガソリン、軽油、暖房用燃料などの石油製品にも波及する。
- ガス火力発電が電力価格を決める限界電源になりやすい市場では、ガス高が卸電力価格を押し上げる。そのため、燃料高と電気代高が同時に家計を直撃する。
- 欧州会計監査院は、EUが例年より低いガス在庫で冬に向かう一方、供給源の多様化、再生可能エネルギー、送電網への投資が目標達成に十分ではないと指摘している。
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ギリシャ、キプロス、北マケドニア、イタリアへの影響
ギリシャ:燃料・観光・農業に広がる負担
自動車利用、島しょ部への輸送、フェリー、観光関連の移動に依存するギリシャでは、ガソリン、軽油、暖房用燃料の上昇が家計と事業者双方に響く。電気料金や食料品価格の上昇も購買力を削る。農家、エネルギー多消費型企業、フェリー事業者は、燃料・物流コストの増加に直面する。
政府は投機的な値上げを抑えるため、燃料とスーパーマーケット商品の利幅に3か月間の上限を設けた。ガソリンスタンドについては、ガソリンと軽油の卸売価格に対する利幅を1リットル当たり12ユーロセントに制限する措置が示された。
19 また、乗用車向け軽油の小売補助、農家の肥料購入への15%補助、戦略石油備蓄の放出への参加なども報告されている。
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キプロス:島しょ国ゆえの輸入・海運リスク
キプロスはエネルギーの域内連系が限られ、輸入燃料への依存度が高い島しょ経済である。このため、石油製品の価格や海運費が上がれば、電気代、交通費、観光業や中小企業のコストに転嫁されやすい。提示された資料だけでは、足元で新たに導入された特定の緊急対策や価格水準は確認できない。
北マケドニア:輸入コストと財政の二重圧力
北マケドニアでは、輸入する電力、ガス、石油の値上がりが家計と産業競争力を圧迫する。料金を補助すれば公共財政にも負担が及ぶ。ユーロ圏外であるため、為替や資金調達環境の変化にも注意が必要だ。提示資料には、現時点での新たな緊急介入を裏付ける具体的な情報はない。
イタリア:製造業・物流・食品への波及
製造業の比重が大きいイタリアでは、ガス・電力高が工場、物流、農業、家庭の負担を広げる。軽油とガソリンの上昇は貨物輸送費を通じて食品価格にも波及しうる。公的債務が大きいため、広範な補助金を打ち出す場合は、金利上昇時の財政負担がより重い課題となる。提示資料では、現在の特定の緊急支援パッケージは確認できない。
政府はどのような対策を取り得るか
EUは、ロシアによるガス供給削減を受けた2022年の危機で用いた対策を再び活用することを検討している。対象には、需要抑制、供給・貯蔵の安全確保、消費者支援、電力の送電網料金や税負担の軽減案などが含まれる。
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各国が短期的に使いやすい手段は、次の通りだ。
- 低所得世帯などに絞った燃料・暖房支援
- 電気料金への支援、税金・賦課金の一時的な軽減
- 不当な利幅や投機への規制
- 農家、フェリー、運輸、エネルギー多消費産業への限定支援
- 戦略石油備蓄の放出
- LNG受入設備、再生可能エネルギー、送電網への投資加速
ただし、広範な補助は財政コストが大きく、省エネの誘因を弱めるおそれがある。対象を絞らなければ、需要を下支えして物価上昇圧力を長引かせる可能性もある。
インフレ、ECB、金融市場への波及
エネルギー価格はユーロ圏のインフレを押し上げている。2026年4月にはエネルギー価格インフレ率が10.9%となり、3月の5.1%から大きく上昇した。食料品のインフレ率も上向いた。
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ECBスタッフによる3月時点の基本シナリオでは、原油価格は2026年第2四半期に1バレル約90米ドル、ガス価格は1MWh当たり約50ユーロでピークをつけると想定された。エネルギー高は購買力、個人消費、GDP成長率を特に短期的に抑えると見込まれていた。
9 供給混乱が長引けば、この前提は楽観的すぎるものになり得る。
金融政策にとっては、景気を弱めながら物価を押し上げる「スタグフレーション型」の難題である。ECBは6月に主要政策金利を25ベーシスポイント引き上げ、預金ファシリティ金利を2.25%とした。
7 その後、7月23日の会合では主要3金利を据え置いた。
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市場では、国債・社債の資金調達コスト上昇、エネルギー多消費企業の株価への圧力、消費関連企業の収益悪化、リスクプレミアムの拡大が懸念される。市場ベースの社債発行コストは2026年3月に3.9%となり、2月の3.5%から上昇した。
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なぜ冬への懸念が強いのか
ガス貯蔵は、寒波、供給停止、LNG船の遅延に備える緩衝材だ。出発時点の在庫が低いほど、欧州は需要が高まる冬にスポットLNGをより激しく争奪しなければならない。
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加えてEUは、ロシア産LNGを2026年末までに全面禁止し、ロシア産パイプラインガスも2027年に段階的に停止する方針を法制化している。
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8 エネルギー安全保障と依存低下の観点では重要な政策だが、他のLNG航路も不安定な局面では、代替契約、貯蔵、受入・輸送インフラを十分に整えられるかが冬の価格と供給余力を左右する。
最大の不確実性は、ホルムズ海峡を巡る混乱の期間だ。短期であれば在庫、備蓄放出、輸送経路の変更で一定程度は吸収できる。一方、混乱の長期化、厳冬、ロシア産LNGの供給減が重なれば、価格高騰だけでなく、供給制限、財政負担、インフレ圧力が一段と強まるリスクがある。