モルガン・スタンレーによるノボ・ノルディスクの「イコールウェイト」から「アンダーウェイト」への格下げは、足元の業績悪化を主因とするものではありません。焦点は、中期的な成長の持続性とバリュエーションです。
同行は目標株価を250デンマーク・クローネに維持し、当時の株価から10%超の下落余地を示しました。その根拠として、中期の成長見通しが抑制的であることに加え、主力成分セマグルチドの「特許の崖」、すなわち特許・独占権の喪失が長期的な企業価値に与える影響が、株価に十分には織り込まれていないと指摘しています。
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最大の論点はセマグルチドへの高い集中
セマグルチドは、糖尿病治療薬「Ozempic」と肥満症治療薬「Wegovy」の有効成分です。モルガン・スタンレーは、同成分がノボの売上高に占める比率を2026年に約75%、独占権喪失の影響が出始めると見込む2031年でも59%と予想しています。
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この集中度の高さは、単一の成分に対する依存リスクを意味します。欧州と米国で主要な保護が2030年代前半から半ばにかけて失われれば、後発品などとの競争が価格と販売量の双方に圧力をかける可能性があります。現在の主力製品が価値を失うという話ではなく、将来減少し得る利益を、新製品が十分な速さで補えるのかが問題です。
イーライ・リリーとの競争が、遠いリスクを足元の課題に変えた
特許切れという長期リスクは、すでに競争が激しくなった肥満症治療薬市場で評価されています。注射薬の肥満症治療ではイーライ・リリーが大きく先行しており、ノボは経口薬で築いた先行優位を守ろうとしています。
ノボは8月、経口Wegovyが米国の経口GLP-1肥満症治療薬市場で約90%のシェアを持つと説明しました。一方、リリーは9月、自社の経口薬「Foundayo」が米国の経口肥満症治療薬における新規患者の30%超を獲得したと発表しています。前者は市場全体のシェア、後者は新規患者シェアであり、単純比較はできません。それでも、競争環境が急速に変化し得ることは示しています。
経口Wegovyの商業展開は依然として重要です。ノボは2026年Q2の投資家向け資料で、米国における経口Wegovyの週間処方数を約26万5,000件と報告し、その後、新規処方におけるシェアは約60%と説明しました。
ただし、第2四半期には経口Wegovyの売上高が市場予想をわずかに下回り、通期見通しの上方修正があっても投資家の懸念は消えませんでした。市場が求めているのは好調な初動だけではなく、競争下でも成長を持続できるという実証です。
CagriSemaの結果は「次の成長の柱」への期待を弱めた
CagriSemaは、Wegovyの次にノボの競争力を補強する候補とみられていました。しかし直接比較試験では、平均体重減少率が23.0%となり、リリーの「Zepbound」の25.5%を下回りました。事前に設定された非劣性の目標も達成できませんでした。
結果の戦略的な重さは市場の反応にも表れました。ロイターによると、試験結果を受けてノボ株は16%超下落しました。 CagriSemaに商業的な可能性がないことを意味するわけではありませんが、次世代の肥満症治療薬でリリーに対する明確な有効性優位を取り戻すという見方は、支えにくくなりました。
パイプラインは前進と後退が混在
臨床開発のニュースは一様ではありません。
明るい材料として、第3相「STEP Young」試験では、肥満のある6歳以上12歳未満の小児に週1回のセマグルチドと生活習慣介入を行ったところ、68週後に40.4%が肥満の基準を下回りました。プラセボ群では該当者はゼロでした。この結果は、セマグルチド製品群の適用拡大を支えるものです。
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その一方、ノボは心血管疾患候補薬ジルチベキマブについて、心不全を対象とする後期段階の2試験を中止しました。独立したモニタリング委員会が成功の可能性は低いと判断したためです。これに先立つ後期試験でも、同薬は主要な心血管イベントをプラセボ比で減らせませんでした。
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この後退は、糖尿病・肥満症以外へ事業を広げる可能性の一つが狭まったことを意味します。セマグルチド依存を薄めるには、他の開発品や既存フランチャイズの拡張を進められるかが、さらに重要になります。
業績とキャッシュ創出力は強い。ただし根本問題は残る
弱気見通しは、ノボに資金力がないという主張ではありません。2026年Q2の資料によると、為替一定ベースの調整後売上高は7%増、調整後営業利益は11%増で、通期見通しも引き上げられました。 財務資料では、2026年上期のフリーキャッシュフローは425億デンマーク・クローネでした。
こうしたキャッシュ創出力は、生産能力の増強、研究開発、新製品投入、株主還元を支える力になります。しかし、現在の財務的な強さだけでは、独占権喪失後の問いには答えられません。将来の成長のうち、セマグルチドに依存しない製品群がどこまで担えるのかが核心です。
「Novo」への刷新とキャピタル・マーケッツ・デーで示すべきこと
同社は日常的な社名を「Novo」に改めましたが、法的なグローバル社名は引き続きNovo Nordisk A/Sです。同社はこれを単独の業績材料ではなく、戦略と企業文化の刷新の一環と位置付けています。
ロンドンで9月21日に予定されるキャピタル・マーケッツ・デーは、投資家の不安に答える重要な機会です。特に注目されるのは、次の点でしょう。
- WegovyとOzempicの競争力を守り、拡大するための方針
- リリーが存在感を高める経口肥満症治療薬市場での戦略
- CagriSemaを含むパイプラインの開発時期と商業化の見通し
- セマグルチドへの依存を下げ得る売上源
- 競争激化と将来の特許切れを見据えた資本配分の優先順位
まとめ
モルガン・スタンレーの250デンマーク・クローネという目標株価は、ノボのリスクが将来の特許イベントだけにとどまらない、という見方を反映しています。セマグルチドへの集中、イーライ・リリーとの競争激化、CagriSemaの決定力に欠ける試験結果、そして多角化の後退が重なり、中期の成長像は不透明になっています。
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ノボは依然として高収益で、強いキャッシュ創出力を持ち、肥満症治療における重要な企業です。ただし投資家にとっての論点は、セマグルチドが過去にどれほど成功したかから、独占性が薄れる前に競争力を維持し、信頼できる後継製品を確立できるかへと移っています。