AIインフラの建設競争は、いまや債券市場のテーマでもある。BNPパリバは、大手クラウド・テクノロジー企業による借り入れ規模が、複数年に及んだ企業クレジットの強気相場を崩す可能性があると警告している。問題は、いわゆるハイパースケーラーの信用力が急に悪化することではない。これまで異例なほど低水準だったクレジットスプレッドを支えてきた需給環境を、大量の新規発行が変えてしまう恐れだ。
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BNPパリバの見方:債券の「品薄」から供給増へ
BNPパリバは、ハイパースケーラーが来年約4,000億ドルの社債を発行すると予想する。固定利付市場全体の純供給も、過去最高となる3兆7,000億ドルに達する見通しだ。
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国債と社債の双方で投資家が吸収すべき債券が大幅に増えれば、社債を「希少な資産」として高く評価し続けることは難しくなる。追加の債券を買ってもらうには、投資家により大きな見返りを示す必要があるためだ。
その見返りは利回りの上昇、そしてクレジットスプレッドの拡大として表れる。クレジットスプレッドとは、企業が同程度の満期を持つ国債などに上乗せして支払う利回りを指す。BNPパリバは2026年末までに、ユーロ建て投資適格債のスプレッドが約6ベーシスポイント、米ドル建て投資適格債が約7ベーシスポイント拡大すると予想している。
AI設備投資が債券市場を動かす理由
大手テクノロジー企業は従来、投資の多くを営業キャッシュフローでまかなってきた。しかしAIとデータセンターの大規模な増強により、社債発行は資金調達において一段と重要になっている。
J.P.モルガン・アセット・マネジメントは、ハイパースケーラーだけで今後1年間に3,000億ドルの投資適格債を発行し得ると試算する。データセンターの整備全体では、2030年までに約2兆ドルの投資適格債による資金調達が必要になる可能性がある。
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発行体の規模が非常に大きいため、その起債は市場全体の需給にも影響し得る。同社の推計では、米ドル建て投資適格債の発行に占めるハイパースケーラーの比率は、2022〜2024年の2%から2026年には9%へ上昇する見通しだ。
つまり市場の論点は、高格付け社債が足りないことから、増えた債券を投資家に保有してもらうにはどの水準の利回り・スプレッドが必要か、という価格の問題へ移りつつある。
投資家の選別姿勢を示す兆候
BNPパリバが想定する再評価は、単なる仮説ではない。欧州中央銀行(ECB)によると、ユーロ建てハイパースケーラー債への強い需要は2026年半ば以降に弱まり始めた。新発債の需要が発行額の何倍あったかを示すカバー比率は低下傾向となり、AI関連の設備投資と起債の拡大に伴うリスクに対し、投資家はより大きな補償を求めるようになった。
米国では、AIハイパースケーラーの起債額が8月10日時点で2,200億ドルに達したと、ロイターがBNPパリバのデータを引用して報じた。AI関連の借り入れが相次ぐなか、投資家需要の限界を試す「疲労」の兆しも報じられている。
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J.P.モルガン・アセット・マネジメントによれば、ハイパースケーラーのスプレッドは年初来で約30ベーシスポイント拡大した。一方、米ドル建て投資適格債指数全体の拡大は2ベーシスポイントだった。残存期間の違いを調整すると、ハイパースケーラーのスプレッドは約105ベーシスポイントで、市場全体のおよそ80ベーシスポイントを上回る。
他社も指摘する大きな資金調達サイクル
試算の幅はあるものの、他の市場参加者も異例の規模の資金調達局面を見込んでいる。
- モルガン・スタンレーの推計では、AI・ハイパースケーラー関連の発行額は投資適格債で最大4,000億ドル、高利回り債とローンでさらに650億ドルに達する可能性がある。
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- ゴールドマン・サックスは、大手ハイパースケーラーのAI投資資金を賄う社債発行が増え続けると予測している。ロイターは、拡大する供給に対し投資家の買い姿勢が選別的になっていると報じた。
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- J.P.モルガン・アセット・マネジメントは、データセンターのエコシステム全体で2030年までに約5兆ドルが必要になり、そのうち約2兆ドルが投資適格債市場で調達される可能性があるとみる。
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これらの予測は、クレジット市場の悪化が必然だという意味ではない。ただし、企業債の見通しを左右する要因として、個々の企業の財務内容だけでなく、発行量そのものが中心的な位置を占め始めていることを示している。
「レイトサイクル」化とは何を意味するのか
BNPパリバの見立ては、企業債市場が転換点に入る可能性を示すものだ。供給が限られ、スプレッドが狭いことが社債価格を支えやすい「ミッドサイクル」の環境から、大量の借り入れを吸収するためにより高い利回りとリスクプレミアムが必要となる「レイトサイクル」の環境へ移行する、という考え方である。
この圧力はテクノロジー企業にとどまらない可能性がある。投資家資金が巨大で格付けの高いハイパースケーラー債に多く向かえば、規模の小さい企業や格付けの低い企業は、資金を呼び込むためにより有利な条件を提示しなければならなくなる。AIインフラが出発点でも、企業の資金調達コストに広く波及し得る。
注意点:信用不安ではなく、需給と評価のリスク
この警鐘は、ハイパースケーラーが自動的に信用力の低い発行体になるという話ではない。事業規模、収益力、資本市場へのアクセスを考えれば、市場はかなりの発行額を吸収できる可能性がある。BNPパリバ自身も、短期的には投資家が供給を吸収できるとしつつ、借り入れが続けば問題が大きくなるとみている。
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決め手となるのは、新規発行のペース、AI関連の収益と設備投資が持続するかどうか、政府の資金調達需要、そして供給増に合わせて投資家需要が増えるかどうかだ。需要が堅調なら市場は大きな混乱なく調整できるかもしれない。反対に需要が追いつかなければ、AI向け債務は、極めてタイトなスプレッドと債券の品薄感が特徴だった企業クレジットの強気相場に終止符を打つ要因となり得る。
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