フランス、イタリア、そしてドイツも加わる可能性があるEU主要3カ国が、化学品・プラスチック分野で輸入を広く管理する**セーフガード(緊急輸入制限)**の調査をEUに求める方向だとロイターが報じました。対象候補は、包装材に使うPET(ポリエチレンテレフタレート)、エポキシ樹脂、ガラス繊維です。
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重要なのは、現時点で輸入枠や追加関税が決まったわけではないことです。各国が求めようとしているのは、輸入急増がEU域内産業に深刻な損害を与えているかを欧州委員会に検証させる調査の開始です。
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対象となる3品目
候補に挙がるのはいずれも、最終消費財ではなく幅広い製造業を支える基礎材料です。
- PET:飲料ボトルなどの包装材に広く用いられる樹脂
- エポキシ樹脂:工業製品の多様なサプライチェーンで使われる化学材料
- ガラス繊維:各種製品の補強材となる素材
EUのセーフガードでは、一定量までの輸入を認め、それを超えた分に追加関税を課す「関税割当」を使うことがあります。EUの案内では、輸入枠は原則として、利用可能な統計に基づく直近3つの代表年の平均輸入水準を下回らないものとされています。
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反ダンピング関税とは何が違うのか
今回の論点を理解するうえで、反ダンピング措置との違いは大きなポイントです。
反ダンピング関税は、特定の国や生産者が不当に安い価格で輸出し、EU産業に損害を与えたかを調査したうえで課す、対象を絞った措置です。EUはすでに、中国、台湾、タイ原産のエポキシ樹脂について損害を伴うダンピングを認定して関税を課しており、エジプト、バーレーン、タイ原産の連続フィラメントガラス繊維にも同様の措置を講じています。
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これに対し、セーフガードは輸入量の急増と、それがもたらす損害に着目します。不当廉売を行ったと認定された国だけに限定されず、幅広い貿易相手からの輸入に適用され得ます。そのためロイターによると、日本やカナダのようにEUと自由貿易協定(FTA)を結ぶ国の供給者も影響を受ける可能性があります。
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つまり、セーフガードは「不公正な貿易をした相手への制裁」ではなく、「急増した輸入全体から国内産業を一時的に守る」ための制度です。この適用範囲の広さが、政治的にも通商政策上も難しい理由になっています。
背景にある欧州化学産業の競争力低下
提案の背景には、欧州化学産業が抱える構造的な問題があります。欧州委員会は主要課題として、高いエネルギーコスト、不公正な国際競争、弱い需要を挙げています。化学産業向け行動計画では、生産能力の閉鎖リスクへの対応や、公平な競争条件の確保を掲げました。
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とりわけ石油化学分野では懸念が強まっています。EU理事会の文書は、競争力と持続可能な生産を回復するための共同対応がなければ、2035年までに約20基のスチームクラッカー(石油化学の基幹原料を生産する設備)が閉鎖され、関連する5万人超の雇用が失われる可能性があると警告しています。
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ロイターも、欧州の生産者が輸入増、中国主導の世界的な生産能力拡大、高コスト、設備の老朽化という圧力に直面していると報じています。
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ただし、工場閉鎖や雇用減少に関する大きな数字は、推計の方法や出所によって幅があります。今回の資料で明確に確認できる公的な警告は、石油化学のスチームクラッカーと関連雇用5万人超についての理事会の見通しです。これは欧州の製造業全体に関する確定的な予測ではありません。
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フランス、イタリア、ドイツの立場
3カ国の産業上の利害は同一ではありませんが、特定分野での調査を求める方向で立場が近づいています。
- フランス:苦境にある化学・プラスチック分野の一部について、原則としてセーフガードの検討を支持しています。
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- イタリア:防衛、自動車、エネルギー、造船、インフラのサプライチェーンに投入される特定の化学品を調査対象とすることに関心を示しています。
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- ドイツ:化学業界が調査要請を準備するなか、原則として前向きな姿勢を示しています。ただし、ベルリンの最終判断は欧州委員会の調査結果を踏まえるとしています。
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従来、ドイツは貿易障壁の拡大に慎重な立場を取ることが多かっただけに、その参加は重要です。EU主要経済国の間で、産業競争力や輸入原料への依存に対する懸念が強まっていることを示しています。
なぜEUはセーフガードをあまり使ってこなかったのか
EUの貿易防衛政策は、国・企業を特定する反ダンピングや相殺関税の調査により大きく依存してきました。セーフガードは、輸入圧力への一時的かつ産業横断的な対応であり、不当な取引を認定されていないFTA相手国にも影響し得るため、使われる場面は限られてきました。
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しかし、対中財貿易赤字の拡大や、貿易の迂回によってEU市場への圧力が増すとの懸念を受け、こうした慎重姿勢は見直されつつあります。ロイターは、EUの対中財貿易赤字が1日当たり約10億ユーロ規模に達していると報じています。
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今後の手続きと日本企業への意味
フランス、イタリア、ドイツなどが要請を出しても、それだけで輸入枠は発動しません。欧州委員会が調査を開始し、セーフガードの法的要件を満たすか判断する必要があります。最終措置に進む場合は、少なくとも15加盟国かつEU人口の65%以上を代表する「特定多数決」の支持が必要になるとロイターは報じています。
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日本の化学品メーカーやEU向けの部材供給企業にとって、足元で直ちに関税が変わるわけではありません。一方で、制度が動き出せば、ダンピング認定の有無にかかわらず、対象品目のEU向け輸出条件が変わる可能性があります。今回の動きは、EUが戦略的な化学原料でより広範な輸入管理へ踏み出すかを占う、初期段階の政策論議といえます。