原油価格が大きく跳ねていないのに軽油が高騰・逼迫しているのは、供給障害が原油を実際に使える燃料へ変える工程と、その輸送に集中しているためです。ロシアと中東で製油所の操業が損なわれ、ロシアの輸出規制とタンカー輸送の混乱も重なりました。軽油、ジェット燃料、船舶燃料を作って届ける力が低下し、冬の需要期前に在庫を積み増す余地が小さくなっています。
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制約は「原油」ではなく「精製燃料」
原油と軽油は密接に関係しますが、同じものではありません。原油は製油所で処理され、軽油やジェット燃料などの中間留分になって初めて利用できます。さらに製品は船、パイプライン、タンクローリーで需要地まで運ばれなければなりません。製油所の稼働や製品輸送に支障が出れば、原油市場が比較的落ち着いていても、軽油は不足し得ます。
シンガポールで開かれたアジア太平洋石油会議(APPEC)では、業界幹部が供給不足を「製品の問題」と位置づけました。ロシアから日量約200万バレル、中東からもほぼ日量200万バレルの供給が失われる一方、他地域の余剰精製能力は限られているためです。
1 国際エネルギー機関(IEA)は、中東の精製処理量が第2四半期に戦前水準を日量290万バレル下回り、第3四半期も日量220万バレル低い状態が続くと推計しました。
つまり、製油所の稼働低下は原油需要を減らし、原油価格への圧力を和らげることがあります。しかし同時に、軽油やジェット燃料の生産量も減る――このねじれが起きています。
戦争が供給を締め付ける仕組み
ロシア:製油所への攻撃と輸出禁止
ウクライナによるロシア製油所への攻撃は、石油製品の主要供給国であるロシアの生産に支障をもたらしました。その後、ロシアは軽油輸出を制限し、国際市場の需給調整に回る供給を減らしました。従来の買い手は別の調達先を探す必要に迫られています。
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ロシアは生産者による軽油輸出の禁止を9月30日まで延長しました。この措置は船舶燃料とガスオイルにも及びます。非生産者による軽油輸出と自動車用ガソリンには2027年1月31日まで、ジェット燃料には2026年11月末まで、それぞれ別の規制が適用されています。
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ロシア産軽油を直接輸入していない国でも無関係ではありません。ブラジルやトルコなど従来の買い手が、米国・欧州・アジアからの代替カーゴを他の輸入国と取り合うためです。
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中東:精製量の低下と輸送の滞り
イランを巡る紛争は中東の製油処理とタンカー航行の双方を損ね、製品の生産量だけでなく、残ったカーゴを配送する効率も低下させています。
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2 これは「製品が少ない」ことに加え、「存在する製品も動かしにくく、輸送コストがかかる」という二重の制約です。
また製油会社は、より高付加価値の軽油などを優先して生産しています。この判断は軽油不足の緩和にはつながり得る一方、船舶や発電で用いられる重油をさらに逼迫させます。重油供給は引き続き深刻にタイトになると見込まれています。
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過去最高の価格とマージンが示すこと
価格は目先の供給不足を映しています。GasBuddyによると、米国の軽油平均価格は9月3日に1ガロン当たり5.820ドルと過去最高に達しました。原油から軽油を作る採算を大まかに表す米国の軽油クラックスプレッドも、同日に一時1バレル当たり108.02ドルの最高値を記録しました。
クラックスプレッドの上昇は、単に原油が高いという話ではありません。原油に比べて、精製後の軽油1バレルの価値が極端に高くなっていることを示します。買い手が入手可能な中間留分を強く求めている状況です。
通常、精製マージンが上がれば製油所は増産を目指します。ただ、APPECでは余剰精製能力の少なさが指摘されました。
1 供給をすぐ増やせないため、在庫の重要性は一段と高まります。在庫が薄ければ、厳冬、想定外の製油所停止、タンカー輸送の新たな支障に対する緩衝材が小さくなります。
アジアと中国が世界需給に与える影響
Kplerのデータを基にした推計では、アジアの軽質・中間留分の輸入量は8月に日量510万バレルとなり、7月の日量561万バレルから減少。戦争開始以降で最も低い水準でした。
3 輸入減は必ずしも需給緩和を意味せず、利用可能な供給そのものが制約されている表れでもあります。
中国の海上原油到着量は8月に日量714万バレルと、7月からわずかに増えたものの、イラン紛争前の水準をなお約40%下回りました。 原油輸入と精製処理の減少は世界の原油需要を抑える一方、本来ならアジア市場を支え得た石油製品の輸出余力も小さくします。
燃料を消費する経済圏では、軽油、ジェット燃料、船舶燃料の高コストが輸送費、産業活動、食品流通、旅行費用へ波及し得ます。影響の大きさは、各地域の在庫、精製品へのアクセス、為替、燃料政策、混乱の継続期間によって異なります。
2027年に向けて注目すべき点
短期的には、原油価格が一方向に上がり続けるよりも、精製品価格の高い変動性が続く可能性が高いとみられます。被害を受けた製油所が復旧する、ロシアの輸出が再開する、中東の海上輸送が正常化する、あるいは需要減で需給が均衡すれば、市場は緩和し得ます。反対に、低在庫と限られた余剰能力のため、軽油価格は新たな供給障害に非常に弱い状態です。
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先物市場の長期価格も、このリスクを織り込んでいます。Reutersによると、欧州の軽油先物は2027年まで2024~25年平均を約35%上回る水準で取引され、米国で軽油の指標の一つとなる暖房油先物も同平均を約42%上回っていました。 これは将来価格の保証ではなく、市場参加者の予想です。それでも示唆は明確です。原油供給だけを回復しても、精製能力と燃料の貿易・輸送ルートが戻らなければ、問題は十分に解消しません。
結論
今回の世界的な燃料逼迫は、精製と物流のボトルネックです。ロシアの輸出規制、戦争に伴う製油所被害、中東での海上輸送の混乱が、冬の需要期を前に軽油などの柔軟に融通できる供給を減らしています。記録的な軽油マージンは、追加の精製燃料1バレルが希少であることを示します。稼働可能な精製能力が増えるか、貿易の流れが円滑化しない限り、地域的な品薄と価格急騰のリスクは残ります。
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