ロシアの石油システムには、連動する二段階の圧力がかかっている。第1段階は、ウクライナのドローン攻撃による製油所の稼働低下と燃料輸出の減少だ。第2段階は、停止が長引き、貯蔵設備や輸出インフラにも損傷・混乱が及べば、原油そのものを動かせなくなることにある。そうなれば一時的な精製減少にとどまらず、油井での減産を余儀なくされる可能性がある。
2026年の見通しは「511百万トン」から494.2百万トンへ
混同されやすいが、ロシア政府の見通しには時点の異なる2つの数字がある。5月に経済発展省が示したベースケースでは、2026年の石油・コンデンセート生産は5億1,100万トンだった。 しかし9月、ロイターが確認した新たな政府案では、2026年予測は4億9,420万トンへ引き下げられた。これは17年ぶりの低水準で、2026~2029年の見通しも5月時点から1,600万~2,000万トン下方修正された。
この改定案は2026年、2027年の燃料輸出見通しも下げている。ロイターによれば、背景としてウクライナとの戦争の影響、すなわち製油所への攻撃の激化と輸出の目詰まりが挙げられた。
独立系の予測も方向性は同じだ。リスタッド・エナジーは、ロシアの原油生産を2026年平均日量895万バレル、2027年は約日量860万バレルと予測する。2026年予測は従来から日量9万バレル引き下げられた。西部の輸出ターミナルでの混乱、海上輸出のコスト上昇と信頼性低下を理由としている。 国際エネルギー機関(IEA)も、製油所、貯蔵、輸送インフラへの攻撃継続を踏まえ、ロシアの供給見通しを下方修正した。
製油所の停止が、なぜ原油生産の減少につながるのか
製油所が止まっても、ただちに油田を止める必要が生じるわけではない。初期段階で直接減るのは、原油を軽油、ガソリンなどの石油製品へ転換する能力である。
深刻になるのは、処理できない原油を別の出口へ十分な速さで振り向けられない場合だ。生産者には原油の行き先――別の製油所、貯蔵タンク、パイプライン、輸出ターミナル――が必要になる。製油処理量が落ちる一方、貯蔵、物流、国内向け燃料の確保、輸出能力が同時に逼迫すれば、原油は滞留する。そこで初めて、油井からの生産流量を抑える必要が生じる。
ノバク副首相が、生産減は製油所での「予定外の保守作業」によるものだと説明したことと、中期予測の悪化は、この点でつながる。ノバク氏は6月、複数の製油所が予定外の保守に入ったため、年初から石油生産が減ったと認めた。 個別の停止については妥当な説明になり得る。しかしより大きな論点は、修理と防護対策が繰り返される攻撃に追いつくのか、また輸出インフラが余剰となった原油を吸収し続けられるのか、ということだ。
混乱の規模は小さくない。ロイターの試算では、1~5月に16カ所のロシア製油所が攻撃を受け、合計でおよそ日量70万バレルの精製能力が失われた。一部の施設は複数回攻撃された。
最も目に見える打撃は軽油を含む石油製品輸出
直近で明瞭に表れているのは、石油製品の輸出減だ。LSEGのデータと市場関係者の情報によると、ロシアの海上石油製品輸出は7月に前月比約3分の1減り、約390万トンとなった。
2 S&Pグローバルの別データでも、7月の海上石油製品輸出は6月の日量151万バレルから日量118万バレルへ低下。2016年に統計が始まって以来の最低水準だった。
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ディーゼルとガスオイルの輸出は、とりわけ急減している。ブルームバーグがまとめたVortexaのデータでは、8月最初の7日間の輸出フローはわずか日量8万バレルで、数年ぶりの低水準となった。
18 これに先立ち、Kplerのデータでは7月最初の10日間の積み込みは平均日量23万4,000バレルで、2025年平均のおよそ日量81万7,000バレルを大幅に下回った。
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これらの数字を、損傷した製油能力そのものと同一視すべきではない。輸出減には、製油稼働率の低下、国内での不足、在庫の運用、物流制約、輸出政策が複合的に影響する。ただ、個別施設の停止を超え、燃料輸出システム全体へ問題が広がっていることは示している。
輸出禁止は、外貨収入より国内供給を優先する選択
モスクワは製油所への攻撃による国内燃料不足と価格上昇を受け、7月8日に軽油の輸出禁止措置を導入した。
20 この措置はロシアで生産されたディーゼル、船舶燃料、ガスオイルを対象に、9月30日まで延長された。
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国内での供給を優先する効果はある一方、付加価値の高い石油製品を海外で販売する機会は減る。また、原油を貯蔵するか、別ルートへ振り替えるか、他の製油所で処理するか、なお機能する輸出経路から送り出すかへの依存度も高まる。混乱が長期化した場合、製油所の問題が原油生産の問題へ転化し得るのは、このためだ。
世界市場で原油以上に影響を受けやすいのは軽油
国際市場への影響は、原油単体よりも、中間留分と呼ばれる軽油・ガスオイルに集中する。製油所の停止は、利用可能な燃料を直ちに市場から減らす。一方で原油は、場合によっては別の場所へ振り向けたり、貯蔵したりできる。したがってロシア産軽油の供給減は、ロシア産燃料を直接購入していない国にも、代替カーゴの獲得競争を通じて影響する。
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ロイターは、7月の軽油輸出禁止が、すでに逼迫していた世界の供給状況をさらに悪化させ、燃料価格を押し上げたと報じた。
3 代替供給を増やすことは簡単ではない。輸出国ごとに製油採算、国内需要、製品規格、海運上の制約があるためだ。ロシアからの軽油輸出が急減した場合、短期的に他国が同量をそのまま補えるとは限らない。
一時的な落ち込みで終わるかを左右する要因
ノバク氏の見方が成り立つかどうかは、製油所が再稼働し、物流システム全体が安定するかにかかっている。 反対に、政府案、IEA、リスタッドの下方修正が示す下振れシナリオは、攻撃の反復、修理の遅れ、貯蔵制約、ターミナル機能の低下、そして海上輸送の高コスト化・不安定化が続くことを前提とする。
要点は、ロシアが二段階の圧力に直面していることだ。製油所への被害はまず燃料生産と輸出を減らし、その状態が続けば、処理できない原油の逃がし先が足りなくなって原油生産も抑制され得る。相次ぐ予測の下方修正は、このリスクが短期的な保守問題ではなく、ロシア石油産業の中期見通しに織り込まれ始めたことを示している。