ガラパゴス諸島の現生・化石サンゴに残った化学的な温度記録を約1000年分たどった研究は、近年の東部太平洋におけるエルニーニョ/南方振動(ENSO)の変動が、過去の長期的な範囲から見ても異例に大きいことを示しました。結論は、海の平均的な温度が上がっただけでなく、人為的な温暖化がエルニーニョの振れ幅を強めている可能性が高い、というものです。
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サンゴの記録が示した数値
サンゴの骨格には、海水温の変化が化学シグナルとして年輪のように刻まれます。研究チームはこの記録から、東部赤道太平洋の海面水温の変動を復元しました。
- 直近40年のENSO変動は、産業革命前の期間に比べ約36~37%大きい。
- さらに、その直前の40年間と比べても約16%大きい。
- 近年40年の変動は、1850年ごろ以前の約1000年間に見られた水準を上回るとされています。
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重要なのは、これはゆっくり一様に増えたというより、近年に増幅が目立つという結果である点です。エルニーニョは、赤道付近の太平洋で海面水温、貿易風、雲や降雨の分布が連動して変動する現象で、世界各地の天候に影響を及ぼします。
温暖化との関係はどう考えられているのか
研究では、世界の気温上昇と東部熱帯太平洋の大きな温度変動に強い対応関係が見られました。考えられるのは、温室効果ガスによる温暖化が東部太平洋の暖水偏差を起こりやすく、あるいは大きくし、強いエルニーニョが雲・風・海洋循環・地球規模の熱の分配を変えることで、短期的に全球の高温や気候影響をさらに強めうる、という増幅過程です。
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ただし、これは単純な「温暖化が起きれば必ずエルニーニョが強くなる」という一方向の決定論ではありません。サンゴ記録と気候モデルの比較は、人為的温暖化が近年の増幅に関わるという根拠を補強しますが、現象そのものは複雑な海洋・大気の相互作用です。
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科学的に残る不確実性
ENSOにはもともと数十年から数世紀の自然変動があり、予測には限界があります。今回のサンゴ記録も、特に東部太平洋型のエルニーニョをよく捉える地域的な指標です。ENSOの発生頻度、海域ごとの現れ方、振幅が将来どの程度変わるかについて、気候モデルは完全には一致していません。
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そのため、この研究から言えるのは次のように整理できます。
- 温暖化がENSO変動を増幅しているとの見方は強まった。
- しかし、ある特定年のエルニーニョの強さを温室効果ガス排出だけに帰することはできない。
- 将来、強さが毎年・一方向に増え続けると保証する結果でもない。
不確実性は「何もしなくてよい理由」ではなく、リスクの幅を見込んで備える必要があることを意味します。
2026~27年のエルニーニョとの関係
2026年6月時点の欧州委員会・共同研究センター(JRC)の季節予報分析では、2026年にエルニーニョが発生する可能性はほぼ確実とされ、非常に強い事象、さらに過去に例のない規模になる可能性も高いと評価されました。
米国の気候予測センターも、2026年後半から2027年初めにかけて非常に強いエルニーニョとなる確率を90%超とし、2026年10~12月期に1950年以降の記録を超える確率を69%と見積もりました。 世界気象機関(WMO)は、現象が2027年2月まで続く可能性はほぼ100%とし、降雨・気温パターンの大幅な変化に伴う洪水、干ばつ、極端な高温の危険性を警告しています。
ただし、これらは確率予報です。「記録更新が確定した」という意味ではありません。今回のサンゴ研究は、その予報を直接決めるものではないものの、温暖な世界では強いENSO変動というリスクの土台自体が大きくなっている可能性を示します。
天候、食料、経済にどう波及するか
強いエルニーニョは地域ごとに影響が異なります。ある地域では干ばつや猛暑、別の地域では大雨、洪水、土砂災害のリスクを高めます。農作物の不作、漁業への打撃、インフラ被害、労働生産性の低下は、食料価格や商品価格を通じて国境を越えた経済的な影響につながり得ます。
国連世界食糧計画(WFP)は、強いエルニーニョによって2027年末までに、脆弱性の高い地域でさらに約4900万人が急性食料不安に陥る可能性があると試算しています。特に中米とアフリカ南部が深刻な影響を受ける地域として挙げられています。
必要なのは「備えること」と「温暖化を止めること」
対応は二つの時間軸で進める必要があります。
直ちに適応を進めること
- 予報に基づく早期行動
- 食料備蓄や現金給付
- 耐乾性の高い農業、水資源管理
- 洪水対策、感染症監視、防災体制の強化
化石燃料由来の排出を急速に減らすこと
- 適応策は、すでに進行するエルニーニョの被害を減らす。
- 排出削減は、サンゴ記録が示唆する将来のより極端なENSO変動の確率を抑えるための対策になる。
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この研究が示す最大のポイントは、予測が完全になるのを待つのではなく、リスク管理として行動する必要があるということです。もともと予測が難しい気候変動が、地球温暖化によってさらに不安定化している可能性がある以上、2026~27年の厳しい影響に備えることと、将来のリスクを押し上げる排出を減らすことは、切り離せない課題です。