サンゴの「微生物療法」を水槽の中だけでなく、実際の海の熱波の中で試した研究が報告された。サウジアラビアのキング・アブドゥッラー科学技術大学(KAUST)の研究チームは、2022年夏に紅海中部で発生した自然の海洋熱波の最中、白化していたミドリイシ類の一種、Acropora cf. validaに処理を行った。
使ったのは、健康な紅海サンゴから得た有益細菌を含む2種類の生菌プロバイオティクスと、それぞれを熱で不活化したポストバイオティクスだ。
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海洋熱波の現場で15日間比較
実験期間中の平均日別海水温は30.9〜31.9℃。サンゴはすでに自然の高水温ストレスにさらされている状態だった。研究チームは、生菌の2処方と対応する不活化処方を投与し、プラセボ処理のサンゴと15日間にわたり比較した。
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健康状態の評価には、見た目の状態に加え、サンゴと共生する藻類の最大光合成効率を示す指標「Fᵥ/Fₘ」を用いた。サンゴは共生藻からエネルギーの多くを得ており、白化はこの共生関係が崩れる現象だ。そのため、光合成効率を保てるかは、熱ストレスへの耐性をみる重要な目安となる。
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重要なのは、管理された実験水槽ではなく、進行中の海洋熱波にさらされた海中で検証した点にある。これまでにも有益細菌が高水温下のサンゴを助ける可能性は示されていたが、今回の試験はその考え方を自然環境で確かめる取り組みとなった。
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生菌2種類と不活化製剤1種類で光合成効率を維持
15日後、プラセボ群では熱ストレスに伴い、共生藻の光合成効率が有意に低下した。一方、生菌プロバイオティクスの2処方ではFᵥ/Fₘが維持され、熱で不活化したポストバイオティクスでも、2処方のうち1種類で同様の維持効果が見られた。
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これは、少なくとも一つの不活化製剤が、熱波の最中に意味のあるサンゴ健康指標で生菌製剤に並ぶ働きを示しうる、という現場での概念実証を意味する。ただし、すべての不活化製剤が有効だったわけではない。
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生菌と不活化製剤は、サンゴを同じようには変えなかった
プロバイオティクスは生きた有益細菌を含むのに対し、ポストバイオティクスは熱で不活化した細菌と、その生理活性成分からなる製剤である。研究では、両者がサンゴのマイクロバイオーム(共生微生物群集)と代謝に異なる変化をもたらしたことが報告された。
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とくにポストバイオティクス処理群では、熱ストレス耐性との関連が指摘される細菌群、Cobetiaの増加が見られた。
6 これは、不活化した細菌そのものが海中で定着しなくても、もともとサンゴにいる微生物群集に作用しうることを示唆する。
もっとも、効果の仕組みはまだ確定していない。今回の結果は、処理、微生物群集の変化、健康指標の改善の関連を示したもので、どの微生物成分やサンゴ側の応答が利益を生んだのかを直接特定したものではない。
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不活化製剤は復元活動で扱いやすくなる可能性
生きた微生物を使う製剤では、製造から輸送、現場での散布まで菌を生かしておく必要がある。不活化ポストバイオティクスであれば、将来的に保管や取り扱いが簡便になり、サンゴ礁の復元事業や、予測される熱波への対応で使いやすくなる可能性がある。
ただし、これは15日間の今回の試験で実証された運用上の利点ではなく、今後検証すべき可能性だ。有効な処方、投与量、対象となるサンゴ種、効果の持続性、そして周囲の生態系に意図しない影響がないかを確かめる必要がある。
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気候対策の代わりではなく、「時間を稼ぐ」手段
この研究は、1種のサンゴを対象に、1回の自然海洋熱波の下で15日間行われたものだ。微生物製剤が、高水温ストレスの一場面で脆弱なサンゴを支える介入策になりうることを示したが、海の温暖化が進むなかでサンゴ礁を恒久的に守れることを意味するわけではない。
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プロバイオティクスとポストバイオティクスの現実的な役割は、熱波の際にサンゴが耐えるための時間をつくる、保全・復元の追加手段だ。大量白化を引き起こす海洋の温暖化という根本要因には、温室効果ガス排出の削減を含む気候変動対策が引き続き不可欠である。