ベネズエラの原油生産は上向く余地がある一方、数年で日量200万バレル超を安定的に回復するのは難しい――これがゴールドマン・サックスの基本判断です。制約となるのは地下にある石油の量ではなく、それを継続的に生産・処理・輸送・輸出するための設備、人材、資金、電力、そして投資環境です。ゴールドマンは、荒廃したインフラと信頼性の低い電力網の修復には高コストと時間がかかると指摘しています。
新規合意が増産を後押しする理由
シェブロン、イタリアのエニ、GEベルノバを含むエネルギー関連の合意は、ベネズエラの原油生産と電力能力の拡大を狙ったものです。
18 とりわけシェブロンは、国営石油会社PDVSAとの合弁事業を拡大し、今後5年間で70億ドル超を投じ、同国での原油生産量を約日量60万バレルへ倍増させる計画を示しています。
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こうした投資は、既存油井の再稼働、現場設備の修繕、操業効率の改善に比較的早く効く可能性があります。ベネズエラの原油には粘度の高い超重質油が多く、生産・輸送には希釈剤や処理設備も欠かせません。したがって、既存資産を直す形の増産なら、新規の巨大油田開発より早く成果が出る余地があります。
ただし、油田だけ直しても増産は続かない
問題は、油井から輸出船までの系統全体が傷んでいることです。過去のPDVSAの管理不全、保守不足、投資減少、機材・希釈剤の不足、制裁などが重なり、原油生産は2019年3月に日量100万バレルを下回りました。
1 近年は回復しているものの、足元の生産・輸出規模は歴史的な水準からなお大きく隔たっています。
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本格的な回復には、単に掘削を増やすだけでなく、次の設備群を一体で立て直す必要があります。
- 集油・パイプライン網
- 超重質油を処理するアップグレーダーや混合設備
- 貯蔵設備、輸出ターミナル、積み出し能力
- 製油所と油田操業を支える電力供給
このうち港湾は、すでに目先の上限として表れています。ロイターによると、老朽化、停電、原油品質の問題により、タンカーが積み込みまで最長30日待つ例がありました。生産が伸びても、港湾と物流が追いつかなければ、原油は滞留するか、値引きを伴う販売を迫られかねません。
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電力網とPDVSAが「全国規模の回復」を難しくする
油田のポンプ、圧縮機、水処理、原油の改質、貯蔵、船積みは、安定した電力なしには動きません。ベネズエラでは電力供給の問題が石油・鉱業の操業を繰り返し妨げてきました。
4 GEベルノバを含む合意が重要なのは、この電力制約にも手を入れようとしているためです。ただし、発電・送電・現場設備の信頼性を広範囲で取り戻す作業は短期間では終わりません。
また、外資が特定の合弁事業を改善できても、油田へのアクセス、既存インフラ、商業面の実行でPDVSAは依然として中心的な存在です。同社の管理不全や保守不足、投資不足の蓄積は、国全体の供給力を戻す際の大きなリスクになります。
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予測はどこが違うのか
ゴールドマン・サックス:増産はするが、回復は段階的
ゴールドマンは、現状のおよそ日量125万バレルから生産が増える可能性を認めつつ、今後数年で2018年以前の水準である日量200万バレル超に復帰するとは見込んでいません。新規合意は有効でも、全国規模の設備再建というボトルネックを一気に解消するものではない、という見立てです。
クリス・ライト米エネルギー長官:より速い立ち上がりを想定
ライト長官は、生産が12〜18カ月で50%増え、翌年前半には日量150万バレルを超え、2030年までに日量200万バレルを大幅に上回るとの見通しを示しています。 日量120万〜125万バレルを起点に50%増とすれば、およそ日量180万〜190万バレルに当たります。これは油田だけでなく、輸出設備と電力供給も極めて速いペースで改善することを前提にした、より強気のシナリオです。
日量150万バレル程度への回復:慎重論と整合的
2028年に日量150万バレル前後という想定は、意味のある増産を認めつつも、すべての構造的問題が短期間で解決するとは置かない点で、ゴールドマンの慎重な見方に近いといえます。業界では、政治的安定と大規模な米国投資があれば、2年間で最大日量50万バレルを上積みできる可能性も指摘されています。
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日量300万バレルへの復帰:まったく別の時間軸
Rystad Energyは、日量300万バレルを2040年までに回復するには、2026〜2040年に約1830億ドルの投資が必要と試算しています。このうち約530億ドルは、現在の生産水準を維持するだけでも必要とされます。日量140万バレルを超えるには、維持投資に加え、2026年から年間80億〜90億ドル規模の安定的な投資が必要になるとの見方です。
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13 ブルームバーグも、Rystadの分析として、過去のピーク水準への復帰には数十年かかり得ると報じています。
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要するに、予測の違いは埋蔵量の評価ではなく、実行速度と前提条件にあります。新たな合意はベネズエラの生産回復を確かに後押しし得ます。しかしゴールドマンは、それを「油田の増産」ではなく「国全体の石油供給網の再建」と捉えています。そのため、短期的な上積みはあっても、日量200万バレル超を持続的に達成するには、長期の資金投入、設備更新、安定した電力、運営・制度面の改善が必要だとみているのです。