欧州が冬を前に抱えるのは、単純な「燃料不足」ではなく、燃料を必要な時期・場所へ運ぶための余力が急速に縮んでいる問題だ。ホルムズ海峡を通る石油製品・LNGの流れが滞り、ロシアでは製油所への攻撃や製品輸出の制限でディーゼル供給が細る。一方、欧州域内の精製能力には大きな余剰がない。この組み合わせが、通常なら距離と運賃の面で成立しにくい輸送ルートまで採算化させている。
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ディーゼルは原油より「精製後の1バレル」が問題になっている
注目されるのがディーゼルのクラックスプレッドだ。これは原油価格に対して、原油から精製されるディーゼルの価格がどれだけ上乗せされているかを示す指標で、原油そのものの値上がりというより、ディーゼルという精製品の不足度合いを映す。
米国のディーゼル・クラックは8月17日に1バレル当たり102.20ドルと過去最高を記録した。欧州でも北西欧州の現物ディーゼル・クラックは7月29日に90ドル超へ上昇し、過去の記録を大きく上回った。
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これは「欧州のクラックが100ドルを超えた」という意味ではない。100ドル超を記録したのは米国市場だが、欧州のプレミアムも極めて高く、遠方から貨物を呼び込める水準まで拡大したことが重要だ。
韓国から北西欧州へ:約9万トンの異例の輸送
その象徴が、韓国産ディーゼル約9万トンを北西欧州へ運ぶ計画だ。新造タンカー「Priamos」が貨物を積み、英国またはオランダ・ロッテルダムへ届ける可能性があり、取引は商品商社トラフィグラが仲介している。航程は約1万2,000マイル(約1万9,000km)に及ぶ。
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これは平常時にはあまり見られないルートだ。長距離輸送には時間、船腹、燃料、保険などのコストがかかるためである。それでも動くのは、欧州で荷揚げしたディーゼルの価値が、アジアから運ぶ追加コストを吸収できるほど上がっていることを示す。
欧州では貨物輸送、産業、農業に加え、一部では暖房にもディーゼルが使われる。需要が増えやすい北半球の冬を控え、調達先を近場に限定できない状況になっている。
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ホルムズ海峡の混乱が、軽油とLNGを同時に圧迫
ホルムズ海峡の機能低下は、原油だけの問題ではない。湾岸の製油所から輸出されるディーゼルなど石油製品の出荷を難しくし、世界市場で代替貨物の奪い合いを招く。報道によると、ホルムズ海峡の交通混乱によって3月以降、日量約70万バレルの供給が失われたと推計されている。
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さらに、同海峡はLNGにとっても重要だ。通常、世界のLNG生産量のおよそ20%がここを通過する。海峡の閉鎖・混乱とカタール施設への攻撃が重なれば、柔軟に仕向け地を変えられるLNG供給の大きな部分が市場から失われる可能性がある。
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欧州にとっては、ガスとディーゼルのどちらかがもう一方の問題を解消するわけではない。LNGが不足すれば、アジアとのLNG争奪が強まり、ガス価格の上昇が産業・発電のコストを押し上げる。ディーゼルも同時に逼迫すれば、物流と燃料供給の調整余地まで狭くなる。
ロシア要因:直接輸入を減らしても世界市場の影響は残る
ロシア産ディーゼルを欧州が以前ほど直接調達していなくても、ロシアの供給減は国際的な需給を通じて欧州に跳ね返る。ウクライナによる製油所への攻撃後、ロシアの生産からは6月以降、日量約70万バレルが削減されたとの推計がある。
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その結果、欧州だけでなく他地域の輸入国も、米州・中東・アジアの代替貨物を求める。限られたディーゼルを各地域が競り合えば、欧州の輸入コストは上がり、韓国からのような長距離輸送が増えやすくなる。
ガスでもロシアは安定した補完供給源ではなくなりつつある。EUはロシア産ガスの輸入を段階的かつ恒久的に停止する規則を採択しており、2025年6月17日以前に締結された短期LNG契約は2026年4月25日から禁止、長期LNG契約は2027年1月1日から禁止される。
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ガス貯蔵の余力も小さい
EUのガス貯蔵率は8月24日時点で62.99%だった。EUには貯蔵設備を90%まで満たす目標があるが、ホルムズ海峡の混乱が続くなかで達成は難しいとの見方も出ている。
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貯蔵率が低ければ、直ちに供給途絶を意味するわけではない。ただし、厳冬、LNGの追加的な混乱、ロシア側のさらなる製油能力低下が起きた際に、価格高騰を抑えたり、需給を調整したりする余地は小さくなる。
何が変わったのか
今回の変化の核心は、欧州が現時点で物理的な燃料欠乏に陥ったということではない。むしろ、供給を確保するための「保険料」が急騰したことにある。
欧州はより遠い地域からディーゼルを調達し、非ロシア産LNGへの依存を高め、冬に向けて小さくなった余力を管理しなければならない。ホルムズ海峡の混乱が長引く、ロシアの製油所被害が広がる、あるいは寒波が来る――そのいずれかが重なれば、まず表れやすいのは供給量そのものより、輸送費と燃料価格の上昇だろう。