性格には、無数の遺伝的変異がごく小さな影響を積み重ねる「多遺伝子性」がある。今回の大規模研究では、開放性、誠実性、外向性、協調性、神経症傾向という「ビッグファイブ」の性格特性と統計的に関連する、約1260の一般的なDNA変異が見つかった。
2
5
ただし、ここから「外向的になる遺伝子」や「不安を感じやすくする遺伝子」が1つずつ見つかった、と考えるのは正確ではない。個々の変異の効果は極めて小さく、遺伝情報だけで一人ひとりの性格を決めたり、正確に予測したりすることはできない。研究が示したのは、あくまで大規模な集団における平均的な傾向だ。
どのような研究だったのか
研究チームは、46の研究コホートから得られたゲノムワイド関連解析(GWAS)のデータを統合した。対象は、欧州系・アフリカ系に近い遺伝的祖先を持つ約61万〜114万人で、数百万か所のDNAマーカーと、質問票で測定したビッグファイブの得点との関係を調べた。
2
研究論文で示された独立した「主要」変異は1257個で、そのうち823個は過去の研究で報告されていなかったものだった。報道などでは、この数が概数として「約1260」と紹介されている。
2
一般的な遺伝的変異を合計すると、5つの性格特性それぞれで観察された個人差の4.8〜9.3%を説明した。性格検査には回答の揺らぎなど測定上の不確かさがあるため、それを統計的に補正すると、説明率は10.5〜16.2%に上がった。
2
変異が1260個あっても、個人の予測は難しい
重要なのは、変異の数の多さと、個々の影響の大きさは別だという点だ。どの1つの変異も、外向的か、几帳面か、不安を感じやすいか、好奇心が強いかを目に見える形で決めるものではない。
2
研究者は、複数の変異の影響をまとめた「ポリジェニック・スコア」も作成した。しかし、独立した予測用サンプルで説明できた個人差は約4%未満だった。つまり、現在の手法では、DNAを調べて個人の性格を高い精度で言い当てることは到底できない。
2
発見に使った集団での説明率と、別の集団で実際に予測できる割合に大きな差があるのは、性格測定そのものの限界や、異なるサンプルに遺伝的推定値を適用する難しさなどが関係している。残りの差には、今回の分析で捉えられなかった遺伝的要因、測定のばらつき、成長過程や社会環境などの非遺伝的要因が含まれる。
「家庭環境を共有したから」だけでは説明できない理由
研究で確認された遺伝的関連は、地域が異なっても比較的一貫していた。また、性格を本人が評価した場合と、家族や親しい他者が評価した場合でも、効果はおおむね再現された。
2
異なる地域や評価者をまたいで関連が再現されたことは、結果が単に「同じ家庭で育ったから」生じたという説明を弱める。ただし、それでも特定のDNA変異が特定の性格特性を直接引き起こすことの証明にはならない。
2
健康や教育、住む場所とのつながりも
研究チームは、ビッグファイブとさまざまな人生上の結果との間に「遺伝的相関」も報告した。これは、性格と別の結果に共通する統計的な遺伝的影響を示すものであり、性格に関連する遺伝子がその結果を直接引き起こす証拠ではない。
関連が調べられた領域には、次のようなものがある。
- 身体的・精神的な健康、長寿に関わる結果。
2
4
- 学歴や教育達成、職業・キャリアに関わる経路。
2
- 新型コロナウイルス感染症へのかかりやすさや重症化に関する指標。
2
3
- 住宅地や近隣地域の選択。遺伝的に関連する性格の違いが、人々が入りやすい、または住み続けやすい環境と結びつく可能性が示された。
2
これらを「ある性格遺伝子が病気や学業成績、職業、居住地を決める」と読んではいけない。遺伝的相関は、生物学的な仕組みの重なりだけでなく、行動、社会的な過程、遺伝と環境の相関によっても生じる。そこから一方向の因果関係を導くことはできない。
2
たとえば健康や長寿も、遺伝だけでなく、環境や生活習慣が組み合わさって形づくられる。
8性格と人生の結果に統計的なつながりが見つかったとしても、それは個人の将来を予言するものではない。
研究が強調する結論
今回の研究が示したのは、「性格には遺伝的な要素があるが、それは多数の変異に分散し、1つひとつの影響は非常に小さい」ということだ。
2
5
DNA研究は、大きな集団の間で性格特性がどのように分布し、どのような要因と関連するのかを理解するうえで役立つ。一方で、個人の性格検査の代わりになったり、人生の運命を決めたり、遺伝情報によって人を順位づけたりする道具ではない。現時点では、性格を形づくるのは遺伝と環境、発達や経験が複雑に重なった結果だと考えるのが最も妥当だ。