ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の赤外線画像を、画素ごとの色に分けて調べる新しい手法により、初期宇宙に存在する「小さな赤い点(Little Red Dots、LRD)」の近接ペア候補が4組見つかった。LRDは、非常に遠方にあるコンパクトで赤い天体で、急速に成長するブラックホールを含む活動銀河核(AGN)の一種ではないかと考えられているが、その正体については現在も議論が続いている。
8
1
今回の結果は、初期宇宙にキロパーセク規模で近接するブラックホールペア候補が、これまで考えられていた以上に多く存在する可能性を示している。ただし、すでに合体中のブラックホールや、最終段階の連星ブラックホールを直接確認したわけではない。
画素単位の解析で見えてきた近接ペア
JWSTのCOSMOS-Web画像で見つかった4組の候補は、互いにわずか0.2〜1.2秒角しか離れていない。通常の解析では、近接した2つの赤い天体が1つのコンパクトな天体として扱われ、別々の天体だと認識されにくい場合がある。
研究チームは、天体全体の明るさや形だけでなく、画像内の各画素の赤外線カラーを調べることで、重なって見える赤い中心部を切り分けた。さらに、天体のコンパクトさに関する選別条件を緩めることで、従来の方法では見逃される可能性がある配置を拾い上げた。
8
分光観測が示した「同じ場所にある」可能性
4組のうち2組については、JWSTのCOSMOS-3Dスリットレス分光観測から、ペアを構成する両方の天体に同じ観測波長の輝線が見つかった。
この輝線を、水素の主要な輝線の1つであるHα(エイチアルファ)と解釈すると、2組の赤方偏移はそれぞれ5.822と5.464になる。赤方偏移とは、宇宙膨張によって光の波長がどれほど伸びたかを示す値で、天体までの距離や、いつの時代の光を見ているかを推定する手がかりになる。
両方の天体から同じ赤方偏移に対応する輝線が検出されたことは、単に同じ視線上に偶然重なった無関係な天体ではなく、実際に近い位置にあるペアである可能性を支持する。推定された投影距離は1.64キロパーセクと7.36キロパーセクで、光年に換算するとおよそ5,300光年と2万4,000光年に相当する。これらは、約125億〜128億年前の初期宇宙に存在していた。
8
偶然の重なりでは説明しにくい数
研究チームは、観測されたペアが偶然の視線方向の重なりで生じた可能性を、模擬カタログとの比較でも検討した。その結果、LRDの小スケールでの集中度は、JWSTで見られるAGNの大スケール相関を単純に延長した場合の約20〜30倍に達する可能性が示された。
8
つまり、今回の4組は単なる偶然の発見ではなく、初期宇宙ではLRD同士の近接ペアが特に多かったことを示すサンプルかもしれない。
ブラックホールの急成長と合体の関係
もしペアを構成する双方のLRDが、周囲の物質を取り込んで成長するブラックホールを含んでいるなら、将来的な銀河同士の合体に伴って、ブラックホールも合体へ向かう可能性がある。合体ではブラックホールの質量が組み合わされるだけでなく、ガスが中心部へ運ばれ、残ったブラックホールへのさらなる降着を促すことも考えられる。
8
宇宙誕生から比較的短い時間のうちに非常に重い超大質量ブラックホールが存在していた理由は、天文学における大きな謎の1つだ。ブラックホール同士の合体とガスの降着が繰り返されれば、初期宇宙で急速に質量を増やす経路の一つになり得る。
8
合体以外の説明も残されている
一方で、LRDの急速な成長を説明するのに、ブラックホール同士の合体が主な要因だとは限らない。濃く光学的に厚いガスの雲や「コクーン(繭)」に包まれたAGNが、非常に速いペースでガスを降着しているというモデルも提案されている。
3
2
こうした説明は、合体シナリオと必ずしも矛盾しない。濃いガスは、合体の前後や合体の最中にブラックホールへ燃料を供給する可能性がある。現段階では、初期宇宙のブラックホール成長において、合体と降着がそれぞれどの程度の役割を担ったのかは分かっていない。
8
3
今後のJWST観測で分かること
より広く、より深いJWSTサーベイに同じ画素単位の選別手法を適用すれば、LRDが近接する頻度や相関関数を精密に測定できる。赤方偏移や明るさによってペアの割合がどう変化するのか、また、合体が初期ブラックホールの主要な成長経路となるほど一般的だったのかが検証可能になる。
8
さらに、こうした測定から初期宇宙におけるブラックホール連星の合体率や質量を推定できれば、将来の宇宙重力波観測所「LISA」や、デシヘルツ帯を狙う重力波検出器の観測対象やイベント数の予測にもつながる可能性がある。
5
今回の研究が示したのは、あくまでLRDの近接ペアが予想以上に多いという強い証拠だ。ブラックホールの合体そのものや、そこから発生した重力波を直接検出した結果ではない。今後の大規模なJWST観測と追跡分光が、この赤い点々が初期宇宙のブラックホール成長史でどのような役割を果たしたのかを明らかにしていくことになる。
8