ロシアの財政危機は、単純な「赤字の拡大」にとどまらない。ウクライナでの戦争関連支出が歳入や借り入れの増加を上回り、国防など政治・軍事上の優先分野を守る一方で、政府がすぐに使える資金まで細っているとみられる。報じられた緊縮策は、計画済みの支出は十分に手当てされているというアントン・シルアノフ財務相の公の説明とも食い違う。
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4月に表面化した「赤字」と「現金不足」
ブルームバーグによると、4月の資金繰り危機を受け、シルアノフ氏はミハイル・ミシュスチン首相に対し、必要な政府支払いをすべて期限内に実施できるだけの現金が不足する恐れがあると警告した。連邦政府の収入を集約し、支払いに使う国庫の統合口座は、約5兆5,000億ルーブルのマイナスになったとされる。
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この数字は累積した財政赤字そのものではなく、国庫の流動性、つまり短期的に利用できる資金の残高を示すものだ。したがって、予算の収支差である赤字と単純に合算することはできない。ただし、財政の穴が大きいだけでなく、保護すべき支払いをこなすための現金も不足していたことを示す指標ではある。
非軍事分野を中心に35%削減
関係者の話に基づく報道では、4月以降、ほとんどの非優先予算項目で支出が約35%削減された。各省庁には不要不急の支出を先送りし、職員を15%削減する可能性に備えるよう求められたという。
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一方、削減の対象外とされたのは、国防、社会給付、公務員給与、地方政府への補助金、国債の元利払いなどだ。つまり政府は、軍事支出や中核的な社会保障、国家の信用に直結する債務返済を維持し、民生関連の裁量的な支出を圧縮する選択をしている。
7月時点で年間赤字計画を大幅に超過
ロシア財務省の暫定値によると、2026年1〜7月の連邦財政赤字は6兆4,550億ルーブル、国内総生産(GDP)比で2.8%だった。年間予算で想定されていた赤字は3兆7,860億ルーブル、GDP比1.6%であり、7月の時点で累積赤字は当初の年間計画の約1.7倍に膨らんだことになる。
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さらに、8月24日時点の赤字は8兆6,540億ルーブルに達したとの報道もある。ただし、この数字は財務省が定期公表する月次資料ではなく、緊縮策をめぐる二次報道で伝えられたものだ。正しければ、年間計画の約2.3倍に相当し、年末までなお4カ月を残した段階で大幅な超過となる。
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年末の赤字がGDP比3.2〜3.8%に達する可能性や、軍事・治安関連でさらに2兆〜4兆ルーブルが必要になるとの見方もある。ただし、追加額は推計であり、正式に承認された歳出とは確認できない。
財政調整の負担は行政と公共サービスへ
クレムリンが選んだ対応は、国防、主要な社会給付、公務員給与、債務返済を守る代わりに、民生の裁量的支出を削ることだ。報じられた削減対象は年間約4兆ルーブル規模に及ぶとされ、短期的にはウラジーミル・プーチン大統領にとって軍事面・政治面のリスクを抑えやすい。一方で、公共サービス、政府投資、行政機構の人員に負担が移ることになる。
財政悪化への政治的な反発が、9月の下院選で制度的に表れやすい状況とも言いにくい。ロシア最高裁は、登録政党として戦争に公然と反対していたヤブロコを選挙から排除した。
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6 そのため、戦費を優先する財政運営に対する有権者の不満があったとしても、議会選挙を通じて明確な反戦・反緊縮の勢力へ結び付く経路は限られている。
現時点で見えているのは、ロシア政府が財政危機を認めて政策を全面転換したというより、軍事・社会保障などの優先支出を維持するため、民生分野の支出と行政能力を犠牲にして時間を稼いでいる姿だ。赤字の規模だけでなく、国庫の流動性、そして削減がいつまで続くかが今後の焦点になる。