ロシアは、英国がウクライナにストームシャドー/SCALP巡航ミサイル関連の機密技術を共有する方針を示したことに強く反発した。クレムリンは決定を「火に油を注ぐもの」と批判し、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、英国とフランスが「火遊びをしている」と非難した。36
今回の直接の争点は、英国製部品に関する機密の技術情報をウクライナ側に共有することを英国が認めた点にある。目的は、ウクライナが自国内で長距離巡航ミサイルを生産できるよう支援することだ。316
モスクワは何を警告したのか
ロシア側が最も明確に示した報復の対象は、英国の軍事関連施設と装備だった。ロシア当局は、ウクライナ軍が英国製兵器を使ってロシア領内を攻撃した場合、ウクライナ国内だけでなく国外にある英国の軍事施設や装備も攻撃対象になり得ると述べた。16
モスクワはさらに、英国とフランスがミサイルの組み立てをウクライナに移すことで、ロシア深部への攻撃に伴う責任を回避しようとしていると主張した。ザハロワ氏は、ロンドンはモスクワの見方では、ロシアの民間人に対する攻撃への法的な加担者となる「一歩手前」にあると述べ、英国が方針を変えなければ「壊滅的な結果」になると警告した。159
ただし、これらはロシア当局が示した脅しと法的主張であり、独立した検証によって確定した事実ではない。提供された報道が裏付けているのは、モスクワの発言と、同国が示した報復方針であって、英国やフランスの領土を実際に攻撃する決定が下されたことではない。
ロシアとNATOの直接衝突は迫っているのか
今回の発言は、西側諸国がロシアによるNATOの意思と結束を試す行動を警戒していた時期に出た。CBSが報じた米情報機関の評価では、ロシアが将来取り得る行動として、ハイブリッド作戦、サイバー攻撃、通常戦争未満の否認可能な措置などが挙げられている。狙いは必ずしも大規模戦争の開始ではなく、NATOの結束と対応意思を試すことだとされた。
BBCが取材した西側当局者は、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ支援国への強い言葉遣いを続けながらも、NATOとの直接的な軍事衝突は避けたいとみている。英国軍や武器生産施設への攻撃を示唆する発言も、全面戦争の新たな計画の証拠というより、西側への圧力を高める従来型の手段と説明された。
この区別は重要だ。ロシアとNATOの通常戦争を避けようとしているからといって、対立のリスクが低いわけではない。欧米の評価では、破壊工作、サイバー攻撃、政治干渉、領空侵犯、ドローン活動などを含む「グレーゾーン」の行動が続く可能性がある。
つまり、最も現実的な危険は、明確な武力攻撃と断定しにくい行為が繰り返されることだ。攻撃主体の特定や、どの程度の対応が適切かをめぐって各国の判断が割れる余地も残る。
CIA長官ラトクリフ氏のモスクワ訪問
CIAのジョン・ラトクリフ長官は8月25日、事前発表のない形でモスクワを訪問した。CIA長官として初めて公に確認されたロシア訪問だったが、当初、会談の目的や内容は明らかにされなかった。1718
その後の報道によれば、ラトクリフ氏はロシア当局者に対し、バルト諸国を含むNATO加盟国を攻撃しないよう警告し、ロシアによるイラン支援についても協議したとされる。 ただし、情報源は会談を知る関係者で、CIAは協議内容を公式には公表していない。そのため、これらは完全な公式記録ではなく、関係者の説明に基づく報道として受け止める必要がある。
訪問のタイミングは、それでも西側の懸念を浮き彫りにした。欧米政府は、ロシアがNATOに対して越えてはならない一線を越えないよう抑止を図る一方、長距離攻撃、兵器供与、ハイブリッド作戦が絡む対立の拡大にも対応しようとしていた。
燃料不足がロシア国内の圧力に
ロシアでは、戦争に伴う経済面・物流面の負担も表面化していた。ロイター通信によると、8月にはウクライナによるロシアの製油所への攻撃と、ガソリン生産の追加削減を背景に、モスクワのガソリンスタンドで長い給油待ちが発生した。
ロイターは別の報道で、ロシアの複数地域で燃料不足が再び起き、少なくとも10地域で当局が販売規制を強化したと伝えた。 地域によっては、エネルギーインフラへの攻撃後に給油量の制限や配給措置が導入されたとも報じられている。
燃料不足がモスクワの対英警告を直接引き起こしたことを示す証拠はない。しかし、ウクライナの長距離攻撃がロシア国内で目に見える問題を生み出していたことは示している。インフラや軍事関連施設への攻撃が続くなか、国内の負担が対立の背景に加わっていた。
兵員損失の数字は何を示すのか
ガーディアン紙が引用した西側当局者は、ロシアがウクライナで毎月、およそ6,000人、採用できる人数を上回る兵員を失っているとの推計を示した。この数字は死傷者と新規採用の差に関する評価であり、正確に検証できる確定値ではない。
戦時中の損失数は独立検証が難しく、情報源によって定義や算定方法も異なる。そのため、この数字を確定した測定値として扱うべきではない。より広い意味で重要なのは、ロシアが大規模な採用を続けている一方、兵員の補充能力が戦略上の制約になっていると西側で議論されていた点だ。
緊張の本質は「直接戦争未満」の圧力
今回のロシアの警告は、主に3つのメッセージを含んでいた。英国の軍事資産への報復を示唆したこと、英国とフランスがロシアへの深部攻撃により直接関与しつつあると非難したこと、そしてロンドンに方針転換を迫ったことだ。15
一方、西側の評価からは、当面の最大のリスクがNATOへの意図的な通常攻撃とは限らないことがうかがえる。より現実的なのは、破壊工作やサイバー攻撃、情報戦、ドローン活動など、関与を否定しやすい手段を使った継続的な威圧だ。
ラトクリフ氏の訪問は、ロシアにNATOへの攻撃を思いとどまらせるための抑止努力と位置づけられる。だが、長距離ミサイルの技術移転、ロシアの製油所への攻撃、兵員不足への懸念が重なることで、対立の管理は難しくなっている。
明確な言葉で脅し合う一方、最も重大な行動は、宣戦布告や全面衝突の境界線の手前で進む可能性がある。今回の警告が示しているのは、まさにその不安定な領域の広がりだ。