結論:提案の存在は確認されたが、内容は不明
JD.comは、ドイツの電子機器小売企業Ceconomyの買収計画をめぐる欧州委員会の調査で、是正措置(remedies)を提案した。Ceconomyは、家電量販店のMediaMarktとSaturnを展開する企業だ。
ただし、EUの規制当局への届け出や公開報道では、どのような措置を提示したのかは明らかにされていない。店舗売却、価格に関する約束、資金調達方法の変更などをJD.comが提案したとする情報は確認されておらず、現時点で断定するのは推測にあたる。
また、今回の提案は調査中の約束であり、欧州委員会が受け入れたことや、買収を承認したことを意味しない。
なぜEUは外国補助金規則で調査を始めたのか
欧州委員会は2026年5月28日、JD.comによる約25億ドルのCeconomy買収案について、EU外国補助金規則(Foreign Subsidies Regulation、FSR)に基づく詳細調査を開始した。
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事前審査では、JD.comが中国に関連する公的機関などから、競争をゆがめる可能性のある外国からの資金的支援を受けたのではないかとの懸念が示された。調査対象には、以下のような支援が含まれる可能性があるとされた。
- 優遇条件での融資
- 税制上の優遇措置や免除
- 中国と関係する機関からの補助金
FSRは、EU域外の政府による支援が企業に不公正な優位性を与え、EU域内の競争に影響を及ぼしていないかを、一定規模以上の企業買収などで審査する制度だ。今回の焦点は、こうした支援がJD.comに有利な買収提案や、その資金調達を可能にしたかどうかにある。
もっとも、これらはあくまで規制当局が検証している論点であり、JD.comの不正や違反が最終的に認定されたことを示すものではない。
2025年7月の買収協議と「Statement of Grounds」の意味
JD.comとCeconomyは2025年7月、買収提案を進めることで合意し、取引は欧州の規制審査へと進んだ。
その後、欧州委員会は2026年7月22日、JD.comに「Statement of Grounds」を送付した。これは、FSRに基づく調査で欧州委員会が把握している予備的な懸念や異議を、対象企業に正式に通知する手続きだ。
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この通知は最終的な違反認定ではなく、調査の結論を先取りするものでもない。JD.comには、欧州委員会の指摘に回答し、必要に応じて対応策を示す機会が残されている。
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8月に明らかになった是正措置の提案は、JD.com側が規制当局の懸念に対応し、買収承認を目指していることを示す。ただし、提案が欧州委員会にとって十分かどうかは、まだ公表されていない。
中国はEUの調査にどう反応したのか
中国側は、EUによる越境調査を「不当な域外管轄権」などと批判した。2026年8月19日、中国当局は国内の組織や個人に対し、関連するEUの措置を実施したり、調査に協力したりしないよう命じた。
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この対応は、欧州委員会が必要とする情報や証拠の一部が中国国内にある場合、調査上の実務的な障害となる可能性がある。中国の対応により、JD.comとドイツの大手小売企業をめぐる案件は、EUの競争・補助金政策だけでなく、欧中間の法的・外交的な対立もはらむ展開となった。
ただし、中国側の主張は、JD.comが補助金を受けたかどうかや、提案された是正措置が競争上の懸念を解消するかどうかを判断するものではない。
英国で指摘されている懸念とは
英国で報じられた問題は、JD.comに対する確定した英国の独占禁止法上の認定ではない。野党の政治家らが、政府や関係機関に対し、JD.comの英国事業拡大を調査するよう求めたものだ。
懸念の背景には、JD.comが中国政府に関連する支援を受けている場合、英国の街中の小売店に対して不公平な競争上の脅威となるのではないか、という見方がある。
これらの主張は、欧州委員会が進める正式なFSR手続きとは別のものだ。一方で、JD.comの欧州展開が単なる新規ECサービスの開始にとどまらず、既存の小売網や物流を含む大規模な事業拡大であることから、各国で競争条件への関心が高まっていることを示している。
Joybuyは欧州戦略のどこに位置づけられるのか
JD.comは2026年3月16日、オンラインマーケットプレイス「Joybuy」を英国、ドイツ、フランス、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクの6カ国で開始した。中国国外での事業拡大を本格化し、Amazonなど既存の大手EC事業者に挑む動きだ。
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Joybuyがオンラインでの顧客接点を広げる一方、Ceconomyの買収が実現すれば、MediaMarktとSaturnを通じて欧州の電子機器小売に大きな足場を得ることになる。両者は、オンラインマーケットプレイスと実店舗の小売網、さらにテクノロジーや物流を組み合わせた、より広範な欧州戦略の一部と見ることができる。
そのため、今回のFSR調査はCeconomy買収の可否だけでなく、JD.comが欧州でどのような条件のもと事業を拡大できるのかを左右する。是正措置の内容が非公開である以上、現時点で残る最大の疑問は、買収承認を得るためにJD.comが具体的にどの事業や取引条件を変更する必要があるのか、という点だ。