金価格が2026年8月に4,700ドル近辺まで上昇した背景には、性格の異なる2つの買いが重なったことがある。ひとつは中央銀行による継続的な金準備の積み増し、もうひとつは地政学リスクやインフレ、財政不安、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策をめぐる不透明感を意識した投資家の資金回帰だ。
金は4,000ドル近辺で数週間もみ合った後、8月初めから約400ドル、約10%上昇した。
1 中央銀行の購入が相場の下支えとなり、ETF資金の流れや米ドル、国債利回り、利下げ・利上げ観測が上昇のスピードを左右したとみられる。
中央銀行の買いが相場の土台に
世界黄金協会(WGC)の2026年第2四半期「Gold Demand Trends」によると、中央銀行など公的部門の金購入は純ベースで288.9トンに達した。前年同期比62%増で、修正後の第1四半期の57トンの5倍超となり、WGCの統計上、第2四半期として過去最高だった。
注目されるのは、金価格が年初の高値から下落した局面でも中央銀行が買い続けたことだ。短期的な値上がりを追うというより、外貨準備の分散や長期的なリスク管理を重視している可能性を示す。ただし、第1四半期が低調だったため、2026年上期全体の公的部門の需要は201年以来の低水準にとどまった。
WGCは、中央銀行が今後12カ月も金を購入する意向を示していると説明している。ポートフォリオの分散、インフレヘッジ、リスクヘッジが引き続き買いを支えるとみられるが、毎四半期に第2四半期と同じペースになるとまでは示していない。
ポーランドが首位、中国などが買いを広げる
WGCの2026年6月時点の統計では、上期の主な買い手は次の通りだった。
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- ポーランド:82トン
- ウズベキスタン:41トン
- 中国:40トン
- カザフスタン:27トン
- チェコ:11トン
- ヨルダン:6トン
ポーランドが明確な首位だったものの、ウズベキスタン、中国、カザフスタンも買い増しを進め、需要の裾野を広げた。チェコとヨルダンの規模は比較的小さいが、新興国や中小規模の市場を含む幅広い準備積み増しの動きを補強している。
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直近の月次データでは、公的金準備は純ベースで41トン増加した。ポーランドが18トン、中国が10トンを占め、ウズベキスタンとカザフスタンも買いを続けた。
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買い手が複数国に分散していることは、金相場が一国の準備政策だけに依存しにくくなる点で重要だ。ただし、中央銀行が一方向に買い続けているわけではない。上期にはトルコとロシアが売り手となっており、公式部門の動きにも減速や反転のリスクは残る。
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WGCの第2四半期報告が示した市場の実像
WGCによると、店頭取引(OTC)を含む第2四半期の金需要は前年同期比で横ばいの1,269トンだった。上期累計は2,522トンで、前年同期比2%増となった。
一方、OTCを除く投資需要は262.2トンに減少。金ETFでは資金流出が発生し、金地金・金貨の需要も前年同期および長期平均並みだった。 つまり、第2四半期の金市場は中央銀行の購入が強かった一方、投資家需要が一様に強かったわけではない。
WGCの先行き見通しは、より前向きだ。2026年後半は、OTC取引やアジアからの買いが増え、投資需要が需要拡大の主役になると予想している。中央銀行も引き続き重要な買い手となる一方、高値が宝飾品需要を抑える状況は続くとみている。
なお、提供された資料には、WGCの中央銀行準備に関する調査の詳細な比率や国別内訳は含まれていない。確認できる範囲で言えるのは、中央銀行が今後も金購入を続ける姿勢を示したという全体的な結論であり、調査に基づく根拠のない国別比率を推測することではない。
投資家の買いが勢いを加えた。ただしETF統計には注意
中央銀行の買いという構造的な下支えに加え、投資家も金に戻ってきた。地政学的・政治的な不確実性が続くなか、安全資産としての需要が強まり、ドル安や米金利をめぐる見方の変化も、利息を生まない金の相対的な魅力を高めた。
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ただし、ETF資金については異なる期間・データセットの数字が混在しているため注意が必要だ。
- ステート・ストリートの8月版モニターによると、7月の米国金ETFへの純流入は4,400万ドルだった。同資料は、5月と6月に合計64億ドルの償還が発生し、レバレッジ投資や短期資金の一部が整理された可能性を指摘している。
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- CNBCがWGCのデータとして報じたところでは、8月24日前の週に金ETFへ46.7トン、約64億ドルの流入があった。10カ月ぶりの強い週間需要だった。
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- 別の市場報告では、ETFが1日で18トンを追加し、資金流入は5週連続となった。
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したがって、「7月に30億ドルが流入し、8月初めにも64億ドルが流入した」といった説明は、提供された資料からは支持できない。より正確には、四半期前半にはETF需要が弱く、あるいは流出していたものの、8月後半の特定の週に押し目買いが戻り、資金流入が急速に改善したということだ。
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金利、インフレ、ドルが相場を動かす理由
金は利息を生まない。そのため一般に、利下げ観測が強まる局面や実質金利が低下する局面、ドルが下落する局面では、金を保有する機会費用が下がり、相対的な魅力が高まりやすい。反対に、実質金利の上昇やドル高は金の重しとなり、利益確定売りを誘発しやすい。
FRBは7月の会合で、フェデラルファンド金利の誘導目標を3.5~3.75%に据え置いた。一方、インフレ率は2%の目標に比べて依然として高いと説明した。 この組み合わせは金にとって複雑な環境だ。インフレや財政への不安はヘッジ需要を生むが、「高金利が長期化する」との見方は金の評価を圧迫する。
8月の上昇局面では、米国債市場の動きや軟調なドルも金を支えた。8月24日には現物価格が1トロイオンス=4,635.39ドル、12月物先物が4,697.80ドルで取引を終えた。
10 その後、先物は4,716.41ドルまで上昇したと報じられている。
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ジャクソンホール会議が次の焦点に
8月27~29日に開催されたジャクソンホール会議でのケビン・ウォーシュFRB議長の発言は、短期的な相場の触媒となった。同議長にとって、FRB議長として初めての同会議での主要講演であり、インフレ、国債利回り、金融政策の枠組みについて考え方を示す機会だった。
市場が注目したのは、インフレが高止まりする一方で、米国債利回りも上昇していることだ。ウォーシュ議長は、金利上昇そのものが金融環境を引き締め、FRBが追加利上げを行う必要性を抑える可能性を示唆していた。インフレが目標を上回るなかでのこの説明は、タカ派とも金融緩和に前向きとも解釈できる余地を残した。
金相場への影響は、主に次の3通りに整理できる。
- 利下げの可能性や、FRBがより緩和的な金融環境を容認する姿勢が示されれば、ドル安や実質金利低下を通じて金を支える可能性がある。
- 強いインフレ抑制姿勢や追加利上げへの支持が示されれば、利回りとドルが上昇し、金の調整リスクが高まる。
- 発言が決め手を欠けば、ETFのポジション、地政学情勢、中央銀行の買いが主な材料として残る。
ジャクソンホールで金利見通しが急速に変わる可能性はある。しかし、すでに第2四半期に行われた中央銀行の購入を取り消すことはできない。その意味で、同会議は上昇の根本原因ではなく、短期的な値動きを左右するきっかけだった。
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金融機関の価格予想は大きく分かれた
金融機関の予想は広い範囲に分かれており、単一のコンセンサスが存在するというより、市場の不確実性を映していた。
- J.P.モルガンは、金価格が第3四半期平均で4,300ドル、第4四半期に4,500ドルになると予想。主要分野の需要が予想を下回る、または経済指標の上振れでFRBが早期に利上げする場合、下振れリスクがあるとした。
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- バンク・オブ・アメリカは、FRBのタカ派姿勢を理由に2026年平均予想を14%引き下げ、4,360ドルとした。一方、利上げ局面が終われば5,000ドルも視野に入るとの長期的な見方を示した。
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- UBSは、2026年3月、6月、9月の目標を6,200ドル、年末を5,900ドルとする強気な見通しを公表した。下振れシナリオは4,600ドルで、値動きの双方向リスクの大きさも示している。
- ナティクシス、シティ、ゴールドマン・サックスについては、年末目標をそれぞれ4,600ドル、4,500ドル、4,900ドルとする市場集計がある。ただし、提供された一次資料や信頼度の高い資料で独立に確認できる数字ではなく、参考値として扱う必要がある。
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- INGについては、提供資料から現在の目標価格や具体的なリスクシナリオを確認できない。
予想レンジは、短期的な反落を警戒する見方から、さらに大幅な上昇を見込む見方まで広がっている。各予想に共通する変数は、中央銀行の購入、ETF需要、実質金利、ドル、インフレ、そしてFRBの政策対応だ。
上昇シナリオと下落シナリオ
強気シナリオでは、外貨準備の分散、中央銀行による継続的な購入、現物・ETF投資の回復、根強いインフレや財政不安、地政学的緊張の激化が金を支える。こうした要因は、短期的な価格に左右されにくい需要を生み出す可能性がある。
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一方、弱気シナリオでは、8月の上昇ペースが速すぎたことによる利益確定売りが警戒される。FRBのタカ派姿勢、実質金利の上昇、ドル高、ETF流入の鈍化、地政学リスクの後退、中央銀行の購入減速はいずれも追加の買い手を弱める要因となる。
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今回の上昇は、単独のETFニュースだけで説明するのが適切ではない。中央銀行の金購入が相場の底を支え、投資需要の回復とマクロ経済の不確実性が上昇に弾みをつけた。金が4,700ドル近辺を維持できるか、それとも過熱感から調整するかは、今後の米国債利回り、ドル、そしてFRBの政策見通しにかかっている。