深圳で何が実現したのか
中国南部のテクノロジー拠点、深圳で、中国初となる完全国産・フルスタック型の1万基AIクラスターが稼働した。新設部分の計算能力は1万1,000ペタフロップス。先行して稼働していた3,000ペタフロップス分と合わせると、同拠点のAI計算能力は合計1万4,000ペタフロップスに達する。711
ここでいう「1万基」は、AI処理に使うアクセラレーターカードが約1万枚規模で接続されていることを指す。単一の高性能チップを導入したという話ではなく、チップ、サーバー、ネットワーク、システムソフトウェアを一体化した大規模な計算基盤だ。
HuaweiのAscend 910CとCANNが中核
クラスターにはHuaweiのAIアクセラレーター「Ascend 910C」が採用されている。ソフトウェア面では、Ascendシリーズ向けの開発・実行環境であるCANNを組み合わせ、「Ascend+CANN」という国産のハードウェア・ソフトウェア基盤を構成する。1112
Ascend 910CとNvidiaのH100をめぐっては、DeepSeekの研究者による報告として、910Cの推論性能がH100の約60%に達したと伝えられている。1114 ただし、この数字は特定のAIモデルや推論処理を使った報告ベースの比較だ。AIモデルの学習性能、ソフトウェアの成熟度、消費電力、異なるワークロードでの結果まで含めて、H100と同等だと示す普遍的なベンチマークではない。
また、HuaweiのAscend 910Cは、2つの大きなチップレットを1枚のアクセラレーターカードに組み込む構成と説明されている。Huaweiは、910Cを384基接続した「CloudMatrix 384」など、複数のアクセラレーターを大規模に連携させるシステムも示している。特定の処理ではNvidiaの大規模システムに対抗できると位置づけられているが、性能や電力効率にはトレードオフが残る。610
AIクラスターでなぜ処理能力が高まるのか
AIクラスターの強みは、数千枚のアクセラレーターを一つの計算資源として扱える点にある。大規模モデルの学習では、データやモデルの計算を複数のカードに分割し、並列に処理する。学習済みモデルを動かす推論でも、大量のリクエストを複数のカードへ振り分けられる。
ただし、カードの枚数を増やすだけでは性能は伸びない。カード同士がデータをやり取りする際の遅延が大きいと、計算より通信に時間を取られてしまうからだ。そのため、大規模クラスターでは高速ネットワーク、メモリー帯域、ジョブ管理、アクセラレーターを効率的に使うソフトウェアが重要になる。
つまり、クラスターの性能は「チップ1枚の速さ」だけでなく、何千枚ものチップをどれだけ無駄なく協調させられるかで決まる。深圳の計画が「フルスタック」と強調されるのは、この連携に必要な部品やソフトウェアまで国産化する狙いがあるためだ。
どれほど利用されているのか
先行して稼働した3,000ペタフロップス分は、1万基規模の拡張部分が稼働する前に予約で埋まっていたと報じられている。11 別の報道では、約50組織が計算資源の利用に関する枠組み合意を結び、拠点全体の予約率は92%に達したとされる。1
この状況は、中国国内で国産AI計算資源を必要とする企業や研究機関が増えていることを示す。ただし、これだけでHuaweiのプラットフォームが中国全土でNvidia製品を広く代替したと結論づけることはできない。一部の中国企業が、海外のデータセンター経由などでNvidiaの高性能チップの計算能力を利用しているとの報道もあり、自立化はなお途上にある。
1.4ナノメートル相当の設計技術と次世代チップ
Huaweiは別の取り組みとして、最先端の露光装置に依存せず、2031年までに1.4ナノメートル相当のトランジスタ密度を実現することを目指すチップ設計の道筋を示した。2
ただし、これはHuaweiが示した将来計画であり、量産されたチップで1.4ナノメートル相当の性能が実証されたという意味ではない。プロセス名としての「ナノメートル」と、実際の性能、電力効率、製造歩留まりは分けて考える必要がある。
またReutersは、Huaweiの新しいAIチップ「Ascend 950PR」について、顧客テストが好調で、ByteDanceやAlibabaが発注を検討していると報じた。3 これは国産チップの採用が広がる可能性を示す材料だが、正式な導入規模や実運用での性能を確定する情報ではない。
米国の輸出規制への産業的な回答
米国は2022年にNvidiaのA100やH100などを対象とする対中輸出規制を導入し、2023年には先端コンピューティング用チップや関連する半導体製造装置をめぐる規制を強化した。23 こうした制限は、中国企業が最先端AIモデルの学習や推論に使える海外製計算資源を確保する難しさを高めている。
深圳の1万基クラスターは、その制約に対する産業面からの回答と位置づけられる。目標は、外国製アクセラレーターを単に別のチップへ置き換えることではない。AIチップ、サーバー、相互接続ネットワーク、コンパイラーや開発環境までを国内でそろえ、最先端モデルの開発に使える規模の計算基盤を構築することだ。
Huaweiが重要な役割を担うのは、Ascendによってチップ単体だけでなく、データセンター向けシステム全体の代替案を提供できるためである。一方で、H100との性能差を示す報告や、海外のNvidia計算資源への依存が残っている事実は、中国のAI自立が「完成」したのではなく、供給網とソフトウェアを含めて移行を進めている段階だと示している。712