マーベル・テクノロジーとGoogleの新たな契約を、「1200億ドルのAIチップ受注」と読むのは正確ではありません。実態は、Googleの購入実績に応じてマーベル株の購入権(ワラント)が段階的に確定する、業績連動型のカスタム半導体提携です。GoogleのTensor Processing Unit(TPU)基盤におけるマーベルの役割を広げると同時に、両社の利害を結び付ける設計になっています。
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契約のポイント
両社は2026年7月29日に商業契約を締結し、マーベルは8月19日に規制当局への提出書類で公表しました。対象となるのは、GoogleのTPUエコシステムに接続するカスタム半導体製品です。具体的には、AI推論アクセラレーター、ストレージコントローラー、ネットワークインターフェースコントローラー、メモリーインターフェースコントローラー、近接メモリー演算(near-memory compute)製品などが含まれます。
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この提携に伴い、マーベルはGoogleに対し、同社普通株式最大5897万907株を1株206.58ドルで購入できるワラントを発行しました。すべて行使された場合の購入額は約121.8億ドルに上り、報道によれば、Googleはマーベルにとって5番目に大きな投資家となる可能性があります。
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「最大1200億ドル」が確定売上ではない理由
ワラントの大部分は、発行時点ですぐに株式へ交換できるわけではありません。おおむね240の区分(トランシェ)に分けられ、対象となるカスタム製品について、マーベルがGoogleおよびその関連会社から認識する適格売上が5億ドル積み上がるごとに、1区分が確定する仕組みです。240区分すべてを合計すると、2033会計年度までの累計売上は約1200億ドルになります。
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ここで重要なのは、1200億ドルが「Googleが必ず発注する金額」ではなく、「ワラントを全額確定させるために必要な購入・売上の基準額」だという点です。Googleにはマーベル株を購入する義務もありません。売上とは無関係に、最初の1年間で約136万株分が確定する一方、大半の権利はGoogleによる購入実績に左右されます。
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投資家が確認すべき数字は、次のように分けて考える必要があります。
- 計上済み売上:マーベルが実際に認識した収益
- 将来の購入マイルストーン:Googleが計画を拡大した場合に到達し得る購入額
- ワラントによる希薄化:追加株式の発行が既存株主に与える影響
- 実行リスク:マーベルが製品を納入し、Googleが想定規模でシステムを展開できるか
Googleにとっての狙いは何か
Googleは長年、自社のAI処理やクラウドインフラ向けにTPUを開発してきました。今回のマーベルの役割は、単一のAIアクセラレーターに限定されません。TPUの周辺にあるネットワーク、メモリー、ストレージ、演算関連の複数層にまたがっています。
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マーベルを加えることで、Googleはカスタム半導体の設計・供給における選択肢を増やせます。特定のパートナーへの依存を抑え、価格や供給条件を交渉する余地を広げる効果も考えられます。また、汎用性の高いNvidia製AI GPUだけに依存せず、用途に合わせた専用インフラを組み合わせる戦略にもつながります。
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ただし、今回の資料だけから、マーベルがGoogleのAIハードウェアにおいてNvidiaやBroadcomを置き換えると結論付けることはできません。示されているのは、Googleが調達先と技術の選択肢を広げているということです。
マーベルにとっての大きな機会とリスク
マーベルにとって魅力的なのは、TPUシステムの複数の層に関与できる可能性です。GoogleがTPUインフラを拡大すれば、単一プロセッサーの販売だけでなく、ネットワーク、メモリー、ストレージ、近接メモリー演算といった領域からもデータセンター関連の継続的な売上を得られる可能性があります。
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一方で、顧客集中リスクは明確です。商業的な上振れの多くは、Googleが対象プログラムを拡大し、契約に基づく購入を実際に増やすことにかかっています。Googleがワラントを行使すれば、マーベルには固定価格での購入代金が入る一方、既存株主にとっては株式の希薄化要因になります。
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したがって、1200億ドルという見出しの数字は、現在の売上や利益ではなく、実行と需要を前提とした将来の上限規模として捉えるべきです。
Broadcomとの関係は消えるのか
今回のマーベルとの契約によって、GoogleとBroadcomの関係が解消されるわけではありません。Broadcomは2026年4月、Googleの次世代AIラック向けに、将来世代のカスタムAIチップや関連部品を2031年まで開発・供給する長期契約を結んだと発表しています。
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それでも、競争環境は変わります。Broadcomは約10年にわたりGoogleとTPUを共同設計してきましたが、今回のマーベル契約は、TPUエコシステムに接続する広範なカスタム半導体プログラムを対象としています。そのため、BroadcomがGoogleにとって唯一、あるいは圧倒的に重要なカスタム半導体パートナーだと見ることは難しくなりました。価格、設計採用、供給配分をめぐる競争が強まる可能性があります。
もっとも、両社の担当範囲を具体的に分ける情報は、引用された資料では十分に明らかになっていません。マーベルの契約をBroadcomの契約の直接的な置き換えと表現するのは時期尚早です。
株価が上昇した背景
発表後、マーベル株は約10%上昇し、別の報道では一時13%高の243.66ドルまで上昇したとされています。大手クラウド事業者であるGoogleとの関係が、マーベルのカスタムAI半導体事業に対する信頼の裏付けと受け止められたためです。
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ただし、この反応は、まだ売上として計上されていない将来の機会を市場が先に評価した面もあります。1200億ドルは契約の最大規模を測る目安ではありますが、確定売上や保証された利益を意味しません。
AMDとOpenAIの契約との違い
今回の構造は、AMDが2025年10月にOpenAIと結んだ契約と、顧客にサプライヤーの株式取得に結び付いたインセンティブを与える点で似ています。AMDは複数世代にわたり最大6ギガワットのInstinct GPUをOpenAIに提供する契約を結び、一定のマイルストーンに応じてOpenAIがAMD株最大1億6000万株を購入できるワラントを発行しました。
ただし、両者の条件は同一ではありません。マーベルのワラントは主に、対象製品について認識された売上を5億ドル積み上げるごとのトランシェに連動します。一方、AMDとOpenAIのワラントは、AMDの提出書類に記載された製品の購入・導入などのマイルストーンやその他の条件に連動していました。
共通するのは、戦略的な利害を一体化する仕組みです。大口顧客はサプライヤーの株式を取得できる可能性を持ち、サプライヤーは将来需要の大きな支えを得ます。これにより、製品の共同設計、供給能力の計画、設備投資の前提を結び付けやすくなります。
一方で、AI業界の関係が複雑になるほど、次の項目を切り分けて見ることが重要になります。
- 顧客の購入計画と、実際に実現した購入
- 計画上の供給能力と、稼働を始めたシステム
- 半導体メーカーの売上と、最終利用者のAI需要
- 株式インセンティブと、通常の商取引による経済性
こうした契約は、急拡大するAIインフラへの実需を反映している可能性があります。しかし、ワラント、出資、購入契約、供給計画が重なることで、業界各社の成長期待が互いに支え合う構造も生まれます。契約があること自体を、最終需要や確定収益の証拠とみなすべきではありません。
最大のポイントは「Nvidia対抗」だけではない
マーベルとGoogleの契約は、AIハードウェア市場が単純な「Nvidia対その他」という構図を超えつつあることを示しています。大手クラウド事業者は、自社のワークロードに合わせるため、カスタム半導体に加え、専用ネットワーク、メモリー、ストレージ技術を組み合わせ、調達先も広げようとしています。
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Googleにとっては、TPUエコシステムの周辺で供給力と選択肢を増やす契約です。マーベルにとっては、事業の姿を変え得る大口顧客との関係ですが、その価値は納入と需要の拡大にかかっています。Broadcomにとっては、長年の供給網に有力な競合が加わることを意味します。
最も妥当な結論は、マーベルが1200億ドルの売上を確保したということではありません。Googleが広範なカスタム半導体提携を維持・拡大する強力な動機付けを設けたこと、そして今後の評価には実際の出荷、計上売上、ワラントの確定状況、持続的なAIインフラ需要を照らし合わせる必要があるということです。