米国と日本は、政府・中央銀行のバランスシートと、異例に明確なメッセージを組み合わせ、急落していた円を押し上げた。効果は鮮明だった。円は1ドル=164円近辺から、いったん155.20〜157.40円まで上昇した。だが8月中旬には159円近辺へと反落し、介入の限界も浮かび上がった。
為替介入はポジションを崩し、相場の混乱を抑え、政策対応の時間を稼ぐことはできる。しかし、資金の流れを生み出している金利差を恒久的に覆すことはできない。
6
8
米国と日本は何をしたのか
日本の財務省は、米財務省と協調した円買い介入を実施したと確認した。米国側では、ニューヨーク連銀がゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーを通じ、ドルを直接売るのではなくユーロを売って円を買ったと報じられている。この方法なら、米国が円を支える一方で、ドルに対する目立った売り圧力を抑えられる。
6
介入規模は、米日で大きく異なる可能性がある。スコット・ベッセント財務長官のメモには、5億ドルではなく「50億〜100億ドル分の日本円を買う」と読める記載があったと報じられた。一方、日本の中央銀行データからは、日本側の購入額が最大365億8,000万ドルに達した可能性が示されている。米国側の実際の金額は、当初の報道では明らかにされなかった。
3
6
今回の対応は、資金を投入するだけの取引ではなかった。ベッセント氏は米国が日本を支えるために「必要なことは何でもする」と述べ、日米両政府は再介入も辞さない姿勢を示した。こうした警告は、円売りに偏ったポジションを持つ投資家に急速な買い戻しを迫り、最初の円高をさらに加速させることがある。
2
4
13
ベッセント氏にとって、円高はなぜ米国の利益にもなるのか
ベッセント氏は、かつてジョージ・ソロス氏の運用チームで円売りを手がけ、利益を上げた経験を持つ。その人物が財務長官として、今度は公的なバランスシートを使って円を支えた点は、今回の介入を象徴している。
1
9
10
ただし、財務長官としての動機は、単に為替の方向で利益を得ることではない。報道では、今回の介入は日本への支援、アジアの金融安定、そして日本市場の混乱が米国の借り入れコストを押し上げるリスクへの対応と結び付けられている。
1
9
10
日本は米国債を含むドル建て資産を大量に保有している。円安が進めば、日本の金融機関や投資家は、国内での資金需要や為替ヘッジに対応するため、ドル資産を売却する必要に迫られる可能性がある。そうなれば、米国債市場に追加的な圧力がかかりかねない。円を安定させることは、日本の通貨を支えるだけでなく、米国債への需要を守るという意味でも、ワシントンにとって戦略的な利点があり得る。
1
もっとも、日本が特定額の米国債を売るはずだったと公的情報が証明しているわけではない。介入は潜在的な市場圧力を和らげた可能性はあるが、米国の財政状況を変えるほど新たな需要を生み出したわけではない。
円高の効果が薄れた理由
円安の原因は、投機筋のポジションだけではなかった。日本で低い金利で資金を借り、その資金で利回りの高いドル資産を買う「円キャリートレード」には、依然として経済的な合理性が残っていた。つまり、介入によって一時的に円を買い戻しても、日米の金利差が大きいままなら、投資家は再び円を調達通貨として使いやすい。
18
20
ロイターの調査では、約60人の為替ストラテジストのほぼ95%が、介入だけでは円安を持続的に止められないと回答した。長期的な変化には、日銀の利上げも必要だとする回答がほぼ全員を占めた。
18
市場では、介入後に日銀の9月利上げ観測が急速に高まった。ロイターによると、利上げの織り込み確率は介入前の24%から76%へ上昇した。元財務省の為替当局者である古沢満宏氏は、追加介入はいつでも起こり得ると述べ、政策金利は最終的に1.5〜1.75%まで引き上げる必要がある可能性にも言及した。
19
21
しかし、市場の期待と実際の政策は同じではない。8月18日までに円は介入直後の水準から約2.5%下落し、1ドル=159円近辺で取引された。モルガン・スタンレーの見方は明快で、円を持続的に押し上げるには、米国の金利低下、日銀の利上げ加速、またはその両方が必要だという。
米国債市場とのつながりと「金融抑圧」批判
円買い介入の後、米財務省は長期国債の流動性を支える別の措置にも動いた。10〜30年ゾーンを対象とする一部の米国債買い戻しについて、1回あたりの規模を少なくとも40億ドルに倍増し、当四半期に少なくとも140億ドルを追加すると発表した。政府は、長期債市場の流動性支援が目的だと説明している。
批判的な見方をすれば、これは一つの政策パターンに見える。友好国の通貨下落を抑えるために為替市場へ介入し、長期金利が政府の資金調達コストを押し上げる局面では債券市場も支える。市場の調整に任せるのではなく、公的な手段で為替や利回りへの圧力を抑えることから、一部の論者はこれを「ソフトな金融抑圧」と呼んでいる。
5
ただし、規模を見れば効果には限界がある。追加の買い戻し額は米国の債務残高に比べれば小さく、流動性や市場心理には影響しても、政府の資金調達負担そのものを解消するものではない。ロイターによると、この措置は米国の総債務が40兆ドルを超え、30年債利回りが2007年以来の高水準に達した時期に発表された。
ドルの基軸通貨としての信認に何をもたらすのか
今回の円買い介入一度で、ドルの基軸通貨としての地位が突然崩れるわけではない。より重要なのは、政策運営に対する信認が少しずつ損なわれる可能性だ。
投資家が、ワシントンは長期金利の上昇を許容しないと判断すれば、市場の調整は別の場所に現れるかもしれない。ドル安、インフレ期待の上昇、あるいは金など代替的な価値保存手段への需要増がその候補だ。米国債買い戻しの発表後、政策の組み合わせへの懸念から金とビットコインが大幅に上昇したとロイターは報じている。
基軸通貨の強さは、経済規模だけで決まらない。制度への信頼、国債市場の流動性、予測可能な財政運営、そして政府債務の実質価値をインフレで目減りさせないという期待も重要になる。介入を繰り返したからといって、直ちにその信頼が失われるわけではない。しかし、金融政策と財政政策が一体化しつつあると市場が感じれば、わずかな兆候にも反応しやすくなる。
手つかずのまま残る米国の財政問題
円安の混乱を抑え、同盟国を支え、米国債市場への潜在的な売り圧力を減らすことには、短期的な価値がある。しかし、それによって米国の債務を生み出す構造要因が解消されるわけではない。継続的な財政赤字、税制と歳出の選択、社会保障や医療などの給付制度、そして高金利で債務を借り換える際の利払い負担は残ったままだ。
長期国債の買い戻しも同じだ。利回りを一時的に低下させれば、政府の資金調達の道筋は改善し得るが、最終的に発行しなければならない債務の総額や、赤字を生み出す政策は変わらない。総債務が40兆ドルを超える環境では、市場環境を管理することと財政状態を立て直すことの違いは明確だ。
持続性を見極めるポイント
今回の介入が長く効くとすれば、経済の基礎条件にも変化が伴う場合だ。具体的には、日米の利回り格差が縮小すること、日銀が利上げを加速すること、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策経路が変わること、あるいは日本への圧力を強めた外部ショックが和らぐことが挙げられる。
そうした変化がなければ、介入は投資家が魅力的でないと判断する水準を、政府が繰り返し防衛する行為になりかねない。過去の通貨危機が示すのは、介入が最も有効なのは、金利変更や財政調整、外部からの資金流入、国際収支の改善など、信頼できる政策転換と組み合わさったときだという点だ。
現時点での評価は、明確に二つに分かれる。ベッセント氏の対応は、戦術的には洗練され、政治的にも意味があった。協調介入によって通貨を短期間で動かし、混み合った円売りポジションを見直させる力を示したからだ。
しかし、円が再び介入警戒水準へ近づき、エコノミストがキャリートレードの再拡大を警告していることは、今回の措置が恒久的なトレンドをつくったのではなく、「時間を買った」にとどまることを示している。
17
20
米国にとっての教訓は、さらに重い。米国債への需要を守り、利回りを管理すれば、目先の資金調達ストレスを先送りすることはできる。だが、債務の算術を変えられるのは、金融政策の信認と独立性、そして持続的な税制・歳出改革だけである。