中国経済は第3四半期の入り口で、政府が掲げる成長目標と、実体経済の勢いとの隔たりを広げている。ゴールドマン・サックスは、7月を含む第3四半期序盤の前年同期比成長率を約4%と推計した。これは第2四半期の公式成長率4.3%から低下し、2026年の政府目標である4.5〜5%を下回る水準だ。711
7月の統計が示したのは、単なる工業生産の減速ではない。個人消費、投資、不動産、若年層の雇用が幅広く弱含む一方、輸出や製造業は比較的底堅さを保った。ゴールドマン・サックスは、今回の減速について「需要主導」と分析している。17
7月の主要指標が示す幅広い減速
中国国家統計局のデータでは、主要指標がそろって市場予想や前月の水準を下回った。
- 鉱工業生産:前年同月比4.5%増。6月の5.3%増から減速し、市場予想の4.8%増にも届かなかった。2
- 小売売上高:0.6%増にとどまり、6月の1.0%増から鈍化。CNBCが紹介した市場予想の1.5%増を大きく下回った。26
- 固定資産投資:都市部の固定資産投資は、1〜7月累計で前年同期比6.7%減。1〜6月の5.7%減から減少幅が拡大した。2
- 不動産投資:不動産投資は前年同期比19%減と、深刻な低迷が続いた。1
- 若年失業率:学生を除く16〜24歳の調査失業率は、6月の14.9%から7月には17.9%へ上昇した。
この組み合わせは、企業と家計の双方が支出や投資を決めにくい状況にあることを示している。住宅市場の低迷は資産価値や将来への見通しを圧迫し、雇用不安は消費者の慎重姿勢を強める。工場の生産能力が残っていても、商品を買う側の需要が戻らなければ、景気全体の回復にはつながりにくい。
政府の成長目標からどれほど離れているのか
中国の第2四半期の国内総生産(GDP)成長率は4.3%だった。CNBCによれば、これは3年以上ぶりの低い四半期成長率で、政府が設定した年間目標4.5〜5%の下限をすでに下回っている。11
ゴールドマン・サックスは、第3四半期序盤の成長率を約4%と見積もる。ほかの国際金融機関の予想はやや高く、マッコーリーは約4.2%、BNPパリバは約4.1%とみているが、いずれも目標レンジには届かない。79
予想に差があるのは、政策支援や財政支出が実体経済にどの程度の速さで波及するかが見通しにくいためだ。ただし、これらの予想は目標成長率への回帰を示すものではなく、減速の度合いをめぐる不確実性を反映している。
輸出や、先端製造業・人工知能(AI)関連インフラに結びつく需要は、GDP全体を支える緩衝材になり得る。しかし、それだけでは家計の安心感、住宅需要、幅広い消費を回復させることはできない。中国経済では、外需と製造業が比較的堅調である一方、国内需要が取り残される二重構造が目立っている。
なぜ追加支援への期待が高まるのか
7月の統計は、景気減速が一時的なものにとどまらず、企業や消費者の慎重姿勢を通じて自己強化するリスクを浮き彫りにした。市場関係者が注目する政策手段は主に次の通りだ。
預金準備率の引き下げ
預金準備率(RRR)とは、銀行が預金の一部を中央銀行に準備金として預けておく比率を指す。RRRを引き下げれば、銀行が融資に回せる資金が増え、金融環境の緩和につながる。
ゴールドマン・サックスは、景気の勢いがさらに弱まった場合、50ベーシスポイントのRRR引き下げと、10ベーシスポイントの政策金利引き下げが選択肢になり得ると以前から指摘している。市場では、政策金利の大幅な変更よりも、RRRの引き下げの方が実施される可能性が高いとの見方が出ている。79
ただし、RRRの引き下げだけで融資や消費が増えるとは限らない。7月のデータが示す中心的な問題は、銀行資金の不足というより、借り手側の需要の弱さだからだ。
融資利子補助と消費支援
家計や特定の企業を対象に融資の利子を補助すれば、借り入れのコストを直接抑えられる。広範な信用拡大よりも対象を絞れるため、消費を下支えしながら、不動産や過剰債務を再び膨らませるリスクを抑える狙いがある。
既存予算の執行加速と政策銀行の融資
中国政府は、大規模な新規景気対策を打ち出すより、すでに承認されたインフラ投資や政府債券の資金を早く執行する方針を示している。既存予算を使えば、8月と9月のデータを見極めながら、比較的速やかに景気を支えられるためだ。
李強首相も、既存政策の効果を十分に発揮させ、実務的な追加政策を策定するよう求めている。ただし、これは家計への大規模な給付や、景気を一気に押し上げる包括的な刺激策を約束したものではない。
北京が「必要十分」の支援にとどめる理由
中国当局が慎重な姿勢を崩さない背景には、構造的な制約がある。広範な信用拡大や不動産救済は、地方政府や不動産開発業者の債務をさらに膨らませ、投機や過剰生産能力を温存する可能性がある。短期的に成長率を押し上げても、家計の需要という根本的な弱点を解決できるとは限らない。
そのため、政策の軸は、インフラ整備、設備更新、戦略的製造業、政策銀行による融資、対象を絞った消費促進策といった供給側・重点分野への支援になりやすい。マッコーリーのエコノミストは、この姿勢を「Just Enough(必要十分)」のルール、つまり成長目標を達成するために必要なだけ支援し、それ以上は行わない方針と表現している。10
この戦略には、輸出が景気の下支えとなる間に、当局が既存の財政手段を段階的に投入できる利点がある。一方で、輸出の強さは国内需要の代替にはならない。小売売上高の低迷、不動産市場の収縮、若年失業率の上昇は、工場やインフラへの投資だけでは解消しにくい信頼感の問題を示している。
次に注目すべき政策シグナル
今後の焦点は、8月と9月の統計で消費と投資に本格的な改善が見られるかどうかだ。改善が乏しければ、RRR引き下げ、融資利子補助、政策銀行などを通じた追加融資の可能性が高まる。反対に、輸出と政府支出がGDPを支え続ければ、北京は小規模で対象を絞った政策対応を続ける公算が大きい。
現時点の材料からは、中国が大規模な「景気刺激策の一撃」に踏み切るというより、成長目標との乖離を埋めるための段階的な緩和を選ぶとの見方が妥当だ。問題は、こうした「必要十分」の政策が、弱い国内需要を本当に立て直せるかにある。