ファーウェイが提唱する「Tau(τ)スケーリング則」は、従来の幾何学的な微細化に代わる半導体開発の枠組みです。ムーアの法則が主にトランジスタの集積度や寸法の縮小を軸としてきたのに対し、Tauスケーリング則では、チップやシステム内の信号伝搬時間、つまり遅延の短縮を重視します。
信号が移動する時間を短くできれば、トランジスタの寸法を単純に縮めなくても、システム全体の処理性能やエネルギー効率、実効的な集積密度を高められるという発想です。
「LogicFolding」は、Tauスケーリング則を具体的なチップ設計に落とし込むためのアーキテクチャーです。回路や配線の構成を工夫し、信号が移動する距離や時間を抑えることで、トランジスタ寸法の縮小だけに頼らず、実効密度と性能の向上を目指します。
ファーウェイは、LogicFoldingを採用する最初の製品として、2026年後半に投入予定のKirinスマートフォン向けプロセッサーを挙げています。 発売後に業界の調査会社や分解分析企業がチップを調べれば、同社の主張を外部から検証する最初の重要な機会になります。専門家にとっては、理論上の提案が実際の製品でどの程度の性能・密度向上につながるのかを判断する試金石です。
Liao氏は、AIとコンピューティングの産業構造を「18層の宝塔」にたとえました。そこには、鉱物や原材料、電子化学品、製造装置、トランジスタ工程、ウエハー製造、先端パッケージングといった下流の基盤から、チップアーキテクチャー、コンパイラー、ソフトウェア、アルゴリズム、AIモデル、アプリケーションまでが含まれます。
これは、NVIDIAのCEOであるJensen Huang氏がAI産業を説明する際に用いる「5層のケーキ」と大きくは対立しません。Huang氏のモデルは、エネルギー、チップとコンピューティング基盤、クラウドデータセンター、AIモデル、アプリケーションという大きな層で産業を捉えます。
一方、Liao氏の宝塔モデルは、その大きなカテゴリーの内部をさらに細かく分解します。半導体の材料や装置、製造、パッケージング、設計、コンパイラー、ソフトウェア、モデルなどが相互に依存しており、どこか一つの弱点がシステム全体の上限を決めるという見方です。
ただし、提供された資料は、Liao氏が「米国と中国は2つの完全に分離したエコシステムを築くべきだ」と正確にどのような言葉で述べたかまでは十分に示していません。確認できるのは、ファーウェイが中国国内のサプライチェーンをより緊密に統合し、単一のグローバルな供給網への依存を減らそうとしていることです。
ファーウェイの提案が業界のルールを書き換えるのか、それとも制裁下での現実的な設計上の選択肢にとどまるのか。その答えは、KirinのLogicFolding搭載チップが市場に登場し、外部の調査や分解で検証されるまで判断できません。