つまり、買い戻しは市場機能の混乱を和らげる可能性はあっても、長期の借り入れコストを決める需給要因そのものを変えるわけではない。国債市場が再び売られれば、株式も引き続き不安定になりやすい。
今回の弱さは米国のハイテク株だけに限られていない。リスク回避の動きが広がるなか、欧州株も下落し、アジアの複数市場も原油高と世界的な債券市場の緊張を背景に週間下落へ向かっていた。
この広がりは重要だ。特定セクターから別のセクターへ資金が移る単純な循環ではなく、経済全体の前提が見直される「マクロ再評価」を示している可能性があるためだ。金利上昇は国際的に資金調達コストを高め、原油輸入国では貿易収支、家計、企業収益への負担を強める。
通貨の動きも、典型的な安全資産への逃避とは異なる。米財務省の発表後、ドル指数は0.84%下落して98.80となり、ユーロは0.88%上昇して1ユーロ=1.1676ドルとなった。 また、リスク資産が反発した局面ではビットコインも大きく上昇した。
これらの動きは、投資家が米国資産へ無条件に資金を逃避させているわけではないことを示す。米国の財政とインフレへの懸念も、今回の価格調整に含まれている。
原油高が広範なインフレ期待を押し上げ始めれば、米連邦準備制度理事会(FRB)が近く金融緩和へ転じるのは難しくなる。ロイターによると、FRB当局者の中には7月会合で利上げに備えていたメンバーもいた。また、7月の総合PCEインフレ率とコアPCEインフレ率は、ともに3%を上回る水準にとどまると予想されていた。
FRBは難しい選択を迫られる。原油ショックに早く反応しすぎれば、インフレ期待が不安定になるリスクがある。一方で、景気が弱まるなか金融引き締めを続ければ、家計や企業、株式のバリュエーションへの負担を深めかねない。
ホルムズ海峡をめぐる混乱が続く間、市場で想定されやすいのは、直ちに利上げが行われるというよりも、長期金利の「高止まり」と値動きの拡大だ。利下げが近いという確信が後退するだけでも、株式市場には重しとなる。
下落がさらに深まるのか、それとも落ち着きを取り戻すのか。焦点は次の3点だ。
市場が反応しているのは、単なる原油高ではない。エネルギー供給の混乱、インフレ、政府債務、割高な成長株が相互に作用する構図全体が見直されている。そのため、長期金利の上昇が続くなら、好調な企業決算だけではこれまでの株高を十分に回復させられない可能性がある。
株式市場が持続的に回復するには、少なくとも次のいずれかが必要になりそうだ。船舶の通航再開に向けた信頼できる進展、原油高の影響を打ち消す基調的なインフレの鈍化、あるいは主要なAI関連企業を中心に市場予想を大幅に上回る利益成長である。
それまでは、原油高と長期金利の高止まりという組み合わせが、世界株をニュースに反応しやすい不安定な状態に置き続けるだろう。