カザークス氏は、さらなる利上げには賛成・反対の双方の論拠があると述べています。ただし、提供された報道だけでは、同氏が利上げに反対する理由を網羅的に確認できません。そのため、特定の政策方針として断定することはできません。
政策当局が直面しているトレードオフは明確です。金利を引き上げればインフレ抑制に寄与する可能性がある一方、これまでの利上げ効果が経済全体にどの程度波及しているのか、新たなエネルギー価格ショックが成長に与える影響を見極める必要があります。カザークス氏はこれまでも、慎重でデータ重視の金利運営を訴えてきました。
したがって、7月の2.9%という数字は警戒を強める材料ではあるものの、それだけで9月の利上げが不可避になったことを意味するわけではありません。
経済指標やエネルギー価格が短期間で変化する状況で、中央銀行があらかじめ具体的な政策を示すと、実際の情勢とメッセージの間にずれが生じる可能性があります。今回の発言は、ECBが必要なら動けることを示しつつ、政策の自由度を維持する意図と受け取れます。
市場では、9月に預金ファシリティ金利を0.25%ポイント引き上げるとの見方が強まっています。しかし、これは市場の織り込みであり、ECBが正式に示した決定ではありません。報道では市場が追加利上げをほぼ確実視している一方、カザークス氏本人は判断をオープンに保っています。
賃金上昇の減速が続けば、域内の需要や人件費を通じた持続的な物価上昇圧力が弱まる可能性があります。また、インフレ期待が目標付近にとどまっていることは、家計や企業、金融市場がECBの物価安定への取り組みをなお信頼していることを示す材料です。
もっとも、こうした安心材料が、エネルギー価格の急上昇や目標を上回るインフレ率という目先の課題を解消するわけではありません。
ECBの判断は、国債市場が不安定な局面で行われます。ユーロ圏の国債には最近売り圧力がかかり、ドイツ10年債利回りは一時3.275%と15年ぶりの高水準に上昇した後、低下しました。フランス10年債利回りも4.13%を上回り、2008年以来の高水準となりました。
国債利回りが上昇すれば、ECBが政策金利を変更しなくても、企業や家計にとっての借り入れ環境が厳しくなる可能性があります。政府債の発行増加や、ECBが満期を迎えた債券を再投資していないことをめぐる指摘も市場の背景として語られていますが、提供された証拠だけでは、発行額の「過去最高」といった主張や、それらが9月の政策判断に与える具体的な影響を独立して確認できません。
そのため、国債市場の動揺はECBの決定を直接決める理由というより、インフレと成長、金融環境を同時に考慮しなければならない広い政策環境の一部と見るべきです。
今後の焦点は、7月のインフレ上昇が主にエネルギー価格による一時的なショックなのか、それともサービスや基調インフレを含む、より広範で持続的な物価圧力なのかという点です。7月のデータは、エネルギーインフレが大きく加速した一方で、サービス価格と基調インフレも高止まりしていることを示しています。
インフレ圧力が長引いたり広がったりすれば、ECBは追加利上げに動く余地を残しています。反対に、既存の金融引き締めが十分に効き始め、エネルギー価格ショックが和らいでいると判断されれば、今回は様子を見る根拠になります。