国際エネルギー機関(IEA)の8月の評価からも、世界全体の在庫バッファーが急速に薄くなっていることが分かる。確認可能な世界の石油在庫は7月に6900万バレル減少し、紛争開始時点より約4億1000万バレル少ない水準となった。
在庫が減ったからといって、直ちに世界の原油が尽きるわけではない。戦略備蓄、代替供給、需要の減少、迂回輸送などが混乱を和らげる可能性はある。
ただし、在庫が少ないほど、追加の輸送障害や生産停止、主要輸出ルート周辺での緊張激化に対応する余地は小さくなる。
ここで重要なのは、輸送ルートの再開と生産設備の完全復旧は同じではないという点だ。主要航路が再び使えるようになっても、すべての油田や輸出設備を直ちに再稼働できるとは限らない。安全上の懸念、設備やインフラの損傷、物流の混乱、再稼働に伴う調整の難しさが、長期的な供給ギャップとして残る可能性がある。
IEAの8月の石油市場報告は、2026年の需給についてより厳しい数字を示している。世界の石油供給は2026年に日量430万バレル減少し、10200万バレルになる見通しだ。米州からの日量140万バレルの増産では、中東とロシアの減少を十分に補えない。
需要が落ち込んでも供給不足は解消されない。IEAは、現在の四半期に約日量180万バレルの不足が生じると見ている。 また、中東の累積供給損失は13億バレル超に達し、ホルムズ海峡の通過量は紛争前の約日量2000万バレルから、3~5月平均で日量270万バレルまで落ち込んだとしている。
EIAとIEAの数字は、必ずしも矛盾しているわけではない。EIAは、前提に基づく価格、生産回復、在庫再建の経路に重点を置く。一方、IEAは足元の供給不足の大きさや、年間供給量の急減を強調している。モデル、発表時期、輸送と生産がどの程度の速さで戻るかについての前提が異なるため、見通しの表現にも差が出ている。
なお、今回提供された8月の評価資料からは、IEAの製油所処理量についての精密な予測や、米国の軽油在庫に関する特定の数字を確実に確認できない。そのため、これらを確定的な比較材料として加えることはできない。
市場のリスクは、合法かつ安全に輸送できる原油の量だけではない。海運リスク情報会社Windwardは、ホルムズ海峡周辺のKoh-e-Mubarak投錨地について、制裁回避や船舶間の積み替えの拠点として活動していると分析した。関与していると評価された船舶は約20隻で、そのうち8隻は米財務省外国資産管理局(OFAC)の制裁対象船舶として確認された。
この分析は、同海峡周辺の海運環境が不透明化していることを示す。非公式あるいはリスクの高いルートで一部の貨物が動き続ける可能性はあるが、そうした活動には、制裁執行、保険、安全性、船舶や貨物の特定、さらなる緊張激化に関するリスクが伴う。
そのため、船舶の活動量が増えたとしても、それだけで原油取引が通常の状態へ完全に戻ったとは判断できない。
EIAの8月見通しは、短期的な供給不足と、その後の不完全な回復を示している。ブレント原油は2026年に平均86.81ドルとなった後、生産と在庫の改善に伴い、2027年には69.39ドルへ下落する見通しだ。しかし、中東では日量約60万バレルの供給障害が2027年末まで残る可能性がある。
IEAの数字は、目先の危険が依然として大きいことを裏付ける。需要が弱まっても供給損失は大きく、世界の在庫も急速に減少している。
今後の市場を左右するのは、単に油田の生産が再開するかどうかではない。保険が付され、透明性が確保され、安全に運航できる輸送網が、地域でどの程度回復するかが決定的な変数となる。