サポートプログラムは、現役中盤の選手が抱える課題や、プロテニスから引退後の生活への移行を支援するための制度だ。男女ツアーにそれぞれ100万ドルずつ配分され、既存の引退後年金制度を補完する役割も想定されている。
これは、トップ選手の優勝賞金を増やすだけでなく、ランキング下位やキャリアの過渡期にある選手の経済的な不安にも目を向ける動きといえる。
背景には、グランドスラム大会の収益を選手にもっと還元するよう求める、選手側の組織的な動きがある。選手たちは、ATPツアーやWTAツアーで示されている水準を念頭に、グランドスラムの収益に占める賞金の割合を2030年までに22%へ引き上げるよう要求している。
2026年のフレンチ・オープンでは、複数の有力選手が記者会見などのメディア対応を通常より短くする抗議活動を実施した。報道によると、義務付けられた15分程度の対応を終えると退席し、その後のインタビューを控える選手もいた。
争点は優勝者がいくら受け取るかだけではない。選手側は、賞金の収益連動、医療や年金などの福利厚生、日程を含む大会運営への発言権を求めている。
選手側にとっては、これまで十分とはいえなかった大会運営への関与を制度化する一歩だ。ただし、当初は大会に共通する競技上の問題が主な対象になる見通しで、収益配分の決定権が評議会に与えられるかはまだ明確ではない。選手が補償問題を提起することはできるものの、具体的な交渉は各大会ごとに扱われると報じられている。
今回の増額や代表組織の設置は、選手側の要求に対する一定の回答だ。しかし、反応は一枚岩ではない。
ジャニック・シナーは、選手たちが受けるべき敬意を得られていないとの趣旨を語った。一方、世界ランキング1位のアリーナ・サバレンカは、状況が改善しなければ将来的にボイコットも起こり得ると警告している。
サバレンカは別の場面で、20%増は「素晴らしいスタート」と評価しつつ、選手と大会側がテーブルに着いて問題を終わらせることを望むとの考えも示している。
つまり、1億800万ドルという数字はプロテニスの選手補償に新たな基準を設けるものだ。1回戦の14万ドルや中堅・引退移行支援の導入は、トップ層以外にも意味のある変化である。
それでも本当の焦点は、毎年の賞金増額が続くかどうかではない。グランドスラムが選手にどの程度の収益を、どのようなルールで、継続的に分配するのか。そして選手が大会の意思決定にどこまで関与できるのか。その答えが示されるまで、今回の発表は対立の終結というより、次の交渉に向けた大きな一歩と見るべきだ。