『The Last of Us Online』は、もともと『The Last of Us』シリーズのマルチプレイヤーモード「Factions」の後継として語られていました。しかし計画は次第に膨らみ、単なる追加モードではなく、シリーズ世界を舞台にした独立性の高い作品として扱われるようになったとされています。
この変化は、開発現場にとって大きな意味を持ちます。物語を中心とした買い切り型のゲームであれば、発売までが開発の大きな区切りになります。一方、ライブサービス型のゲームは発売がゴールではありません。新たなコンテンツの制作、アップデート、障害対応、運営計画などを長期にわたって続ける必要があります。
Naughty Dogは当時、プロジェクトを維持するにはほぼすべてのリソースを発売後のサポートに振り向けなければならず、他のゲームを作る能力に「深刻な影響」を及ぼすと説明しました。
つまり問題は、ゲームが面白いか、あるいは発売できる状態に近いかだけではありませんでした。Naughty Dogが、ひとつのオンラインサービスを恒久的に運営する会社へ変わってしまう可能性そのものが問われていたのです。
ただし、この数字はSonyが公表した開発進捗の公式指標ではなく、Agarwal氏による振り返りの推定です。また、80%完成という表現が、そのまま「発売まで残り20%だった」ことを意味するわけでもありません。
ライブサービス作品では、ゲーム本体がプレイ可能になっていても、サーバーや運営インフラ、継続的なコンテンツ、テスト、発売後の更新計画などに膨大な作業が残る場合があります。
それでも、この数字が示すものは大きいでしょう。Naughty Dogがアイデア段階の企画を見切ったのではなく、数年に及ぶ開発を経て、かなり深い段階まで進んだプロジェクトを手放したことを示しているからです。
核心にあったのは、いわゆる「機会費用」でした。2023年12月の公式ブログ投稿でNaughty Dogは、ゲームを継続するなら、発売後のサポートにスタジオのほぼ全リソースを投入する必要があり、他のタイトルを作る能力に「深刻な影響」が出ると説明しています。
Naughty Dogは、『The Last of Us』や『Uncharted』で知られる、作り込まれたシングルプレイヤー作品を得意としてきたスタジオです。『The Last of Us Online』を運営し続けるには、ひとつのサービス専属ともいえる大規模なチームを長期間維持しなければなりません。その分、新たな物語作品に携われるスタッフは減ってしまいます。
もちろん、Naughty Dogの全スタッフがこのゲームだけに携わっていたわけではなく、同作だけでスタジオ全体の発売スケジュールを説明できるわけでもありません。それでも、数年分の主要な開発能力が、最終的にプレイヤーへ届かなかった作品へ投入されていたことは、発売間隔が大きく空いた理由として無視できません。
『The Last of Us Online』の中止後、現在Naughty Dogが開発している新規IP『Intergalactic: The Heretic Prophet』には、同プロジェクトのスタッフの多くが移ったと報じられています。
ここで重要なのは、『Intergalactic』が以前から完全な人員体制で並行開発されており、オンライン作品の完成を待っていただけではないという点です。報道によれば、同作のチームは『The Last of Us Online』の中止後に大きく拡充されました。
『Intergalactic: The Heretic Prophet』はNaughty Dogの新たなフランチャイズで、共同社長のNeil Druckmann氏が率いています。発売時期は2027年が目標と報じられていますが、Sonyが正式に確定した発売日ではありません。
また、Naughty Dogが他にも未発表プロジェクトを抱えているという報道や噂もあります。ただし、作品名や規模、ディレクター、発売計画について確実に確認された情報は十分ではありません。現時点では、発表済みのゲームとして扱うべきではないでしょう。
『The Last of Us Online』の中止は、Sonyがシングルプレイヤー中心の従来路線から、継続的な収益を生むライブサービス作品へ事業を広げようとした動きの難しさを示す象徴的な事例になりました。
Sonyのライブサービス戦略をめぐっては、2024年8月に発売された『Concord』が短期間でサービスを終了したことも大きな話題になりました。同作は同年9月にオフライン化されています。
さらに2025年1月には、Bend StudioとBluepoint Gamesで開発されていた未発表ライブサービス作品も中止されました。ここで注意したいのは、Sonyが中止したのはゲームであり、両スタジオそのものではないという点です。当時の報道では、両スタジオは存続し、Sonyが今後のプロジェクトについて協議するとされていました。
ライブサービスには、成功すれば継続的な収益を生み出せる魅力があります。しかし、失敗した場合には、発売前から何年分もの開発費と人員を消費する可能性があります。
『The Last of Us Online』が特に目立つのは、評価の高いシングルプレイヤー作品で知られるNaughty Dogの大部分を長期にわたって巻き込み、発売に至る前のかなり進んだ段階で中止されたとみられるためです。
『The Last of Us Online』の経緯は、小さなマルチプレイヤー企画が、巨大で高コストなライブサービス事業へ変貌した例といえます。そして、無期限の運営に必要な負担が明らかになった段階で、その計画はNaughty Dogが得意とするシングルプレイヤー作品の方向性と両立しにくくなりました。
中止によって、Naughty Dogは将来の新作に人員と時間を戻すことができました。しかし同時に、数年分の開発期間と、スタジオの発売計画における大きな空白も残りました。Sonyにとっても、数億ドル規模と報じられる投資を回収できない結果になったとされています。
このゲームの“遺産”は、プレイヤーが遊べなかった作品というだけではありません。ライブサービスへの期待が、限られた開発リソースをどのように再配分し、物語主導の大作スタジオの個性や発売時期まで変えてしまうのかを示す、ゲーム業界のケーススタディでもあります。