7月には湾岸地域からの原油輸送が一時的に持ち直し、より深刻な供給ショックへの懸念を和らげた。しかし、正常化を示すほどの回復ではなかった。
タンカーの往来が一時的に増えても、積み出し、保険、航行、荷揚げが通常に戻ったとは限らない。遅れていた貨物が一時的に放出されただけなら、輸送の回復は持続的な供給改善とは言えない。
短期的なリスクの中心となったのが、世界有数のエネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡だ。8月18日、イランは同海峡を閉鎖したままにすると表明し、米国は停戦の延長を否定した。同日の終値は、北海ブレントが1バレル=91.02ドル、米国産WTIが84.94ドルで、いずれも7月24日以来の高値となった。
ロイターは、市場がホルムズ海峡の航行制限を短期的なショックではなく、数カ月続く可能性のある状況として織り込み始めていると報じた。原油価格がパニック時の上乗せ分を一部失いながらも、1バレル約90ドル付近で下げ止まった背景には、この見方がある。
現物市場で問われるのは、地下に存在する原油の総量だけではない。原油を積み込み、保険を付け、航行させ、必要な製油所まで届けられるかが重要になる。工程のどこかが止まれば、年間の生産統計に影響が表れる前に、短期の現物市場が逼迫する。
Vortexaの警告を単なる地政学ニュース以上のものにしたのが、IEAの需給見通しだった。IEAによると、世界の石油供給は7月に前月比で日量240万バレル増え、1億150万バレル/日となった。しかし、それでも前年同月を日量630万バレル下回っていた。
Vortexaの輸出・在庫データとIEAの見通しを合わせると、市場は供給と製油所需要の差を既存在庫で埋めている構図に見える。在庫の取り崩しが続けば、製油会社は目先の貨物をより強く奪い合うことになる。通常は現物価格だけでなく、近い限月と遠い限月の価格差にも上昇圧力がかかるが、実際の値動きは需要と供給回復の速さにも左右される。
Vortexaの主張は、特定の価格目標を示すものではない。物理的な需給バランスと、市場価格が織り込んでいる前提が一致していないという条件付きの評価だ。
先物価格は、停戦への期待、代替ルートへの貨物の振り替え、需要減退の予想に反応する。一方、現物バランスは、実際の積み出し量、航行能力、在庫の増減によって決まる。Vortexaが指摘したのは、この2つのシグナルの乖離だった。日量700万バレルを超えるペースの海上在庫減少と輸出の縮小を踏まえると、1バレル約90ドルは現物市場のタイト化を十分に反映していない可能性がある。
もっとも、価格上昇が必ず起きるわけではない。停戦、航行の再開、代替供給ルートの確立、製油所稼働率の低下、消費の減少が起きれば、需給の逼迫は和らぐ。警告は、混乱が続いた場合に上昇圧力が強まるという見立てだ。
供給ショックの影響を和らげる可能性があるのが中国だ。中国は輸入を減らし、在庫を取り崩し、製油所の稼働を落とすことで、海上貨物への競争を弱められる。中国は戦略備蓄と商業在庫の規模を公表していないが、米エネルギー情報局(EIA)は、2025年12月時点の中国の戦略原油在庫を約14億バレルと推計している。
この在庫の存在は、供給ショックが価格の1対1の急騰につながるとは限らない理由だ。中国の買い付けが減れば、他地域の買い手との競争が弱まる。在庫を放出すれば、輸入の一部を一時的に代替できる。
ただし、在庫の実態が不透明なため、外部の分析者には、どれだけの量をすぐに使えるのか、どの程度の速度で取り崩しているのかが分かりにくい。中国の備蓄が市場の緩衝材になり得ることは資料で支持されるが、元の質問にある10億~17億バレルという範囲や、個別の需要・事故に関する主張すべてが独立に確認されたわけではない。
Vortexaの警告を支えたのは、次の4つのシグナルの組み合わせだった。
単独のタンカー数や地政学的な見出しよりも、これらが同時に起きていることの方が重要だ。
最も堅い結論は、原油価格が必ず一定の割合で上昇するということではない。8月18日時点で、現物市場のタイト化が価格に織り込まれるより速く進んでいるように見えた、という点だ。中国が輸入を減らし、在庫を取り崩せば上昇幅は抑えられる。高値による需要破壊も同様だ。
しかし、ホルムズ海峡の制限と輸出減少が続けば、すぐに調達できる原油のプールは縮小する。そこに製油所の需要が重なれば、原油価格にはなお上向きの圧力がかかる余地がある。