今回の研究だけでは、MRIで捉えられた変化の原因を特定できない。考えられる説明には、次のようなものがある。
認知機能が正常な高齢者を対象にした別の画像研究でも、皮質の厚さとアミロイド、タウの関係は一様ではないことが示されている。皮質の薄さは、単独で診断を下す指標ではなく、複数の生物学的過程が反映されたシグナルとして解釈する必要がある。 また、別の研究では、アルツハイマー病の特徴とされる領域の皮質菲薄化率が、アミロイドの状態ではなく血管負荷と関連していた。MRI異常を自動的にアミロイドの影響とみなすべきでない理由はここにもある。
このパターンが他の研究でも再現され、個人レベルで十分な精度を持つようになれば、定期的なMRIは、症状や高いアミロイドPET蓄積が現れる前の経過観察に役立つ可能性がある。血液バイオマーカー、認知機能検査、遺伝的リスク情報、タウ・アミロイド画像と組み合わせれば、より立体的なリスク評価も期待できる。
早い段階で生物学的変化を追跡できれば、研究上は次のような利点が考えられる。
ただし現時点では、通常のMRIで見られる皮質の菲薄化を、一般集団向けのスクリーニング検査やアルツハイマー病の診断に使える根拠はない。今後の核心は、変化を早く見つけられるかだけでなく、早く見つけて介入することで転帰が改善するのかを実証できるかどうかだ。
発症前のタイミングをめぐる問題は、治療研究にも直結する。臨床試験が始まる頃には、症状と病理変化がすでに進んでいる可能性があるためだ。
同じGLP-1受容体作動薬の一つであるリラグルチドについては、注射薬を用いた小規模研究で、アルツハイマー病で影響を受けやすい脳領域の体積減少が少ない可能性と、認知機能低下が緩やかになるシグナルが報告された。ただし、これは画像および初期臨床指標に関する有望な結果であり、リラグルチドがアルツハイマー病の有効な治療薬だと証明したものではない。
一方、ノボ ノルディスクが実施したEVOKEおよびEVOKE+第3相試験では、異なる結果が得られた。40か国566施設で、合計3,808人を無作為に割り付け、1日1回の経口セマグルチドを最大14mgまで投与した。104週後、初期の症候性アルツハイマー病患者では、セマグルチドはプラセボと比べて認知機能や日常生活機能の低下を遅らせなかった。
この結果は、すべてのGLP-1薬がアルツハイマー病に無効だと証明するものではない。示されたのは、今回の対象者、投与量、投与期間、投与経路で試験された経口セマグルチドが、臨床的な利益を示さなかったということだ。
リラグルチドとセマグルチドの差には、薬剤分子そのものの作用、用量や体内曝露、注射と経口投与の違い、治療を始める時期、病期、そして関連する脳部位に十分な薬剤が到達するかどうかなどが関係している可能性がある。ただし、これらは今後検証すべき仮説であり、両試験から確定した結論ではない。
MRIの研究とGLP-1薬の試験結果は、別の角度から同じ課題を浮かび上がらせている。アルツハイマー病に関わる生物学的変化は、症状やPET陽性より何年も前に静かに始まる可能性がある一方、検出技術や治療試験は、病理と症状が進んだ後に始まることが多い。
今後は、どの初期構造変化がアルツハイマー病に特異的で、将来の認知機能低下を予測するのかを明らかにする必要がある。負担の少ないバイオマーカーを検証し、オスロ大学の結果を査読済み研究で再現し、プラーク量が大きく増える前の介入が認知機能を維持できるかを調べることも欠かせない。
現段階での「7年前」というMRIシグナルは、アミロイドPETだけでは見えない、より早いアルツハイマー病の時間軸を示す証拠として理解するのが適切だ。すぐに使える診断法や治療方針を示したものではなく、早期の変化を正確に捉え、実際に役立つ介入へつなげるための研究課題を明確にした結果だと言える。