鉄鋼とアルミニウムはCBAMの直接的な対象であり、製造時の排出量も大きい。このため輸出企業は、炭素コストの増加に加えて、排出量の測定、第三者による検証、証明書類の整備といった実務負担にも対応しなければならない。
EU市場に炭素集約型製品を輸出するインド、南アフリカ、中国の生産者にとって、CBAMは特に重要な問題となる。世界銀行の推計を引用した政策評価では、CBAMによって途上国から年間160億ドル相当の輸出が影響を受ける可能性があるとされる。ただし、これは3カ国に限定した推計ではない。
BRICS側の根本的な主張は、気候変動対策の費用負担を誰が担うべきかという問題にある。
先進国は、これまでの累積排出量が大きく、資金面・技術面でも高い対応能力を持つ。一方、途上国は開発と雇用を維持しながら脱炭素化を進めなければならない。BRICSの見方では、途上国の生産者にEUの炭素価格を負わせることは、パリ協定が掲げる「共通だが差異のある責任および各国の能力(CBDR-RC)」の原則と衝突する。
CBAMによる収入については、単一の確実な2030年予測は確認できない。公表されている試算には、2028年以降の年間15億ユーロという見積もり、年間約21億ユーロという見積もり、さらに現行の対象範囲を前提にした2030年の年間50億~90億ユーロという幅のある推計がある。
明確なのは、CBAM証書の収入がEU予算に入る設計になっている点だ。 BRICSが問題視しているのは、途上国の輸出企業から集めた資金が、途上国の排出削減や産業転換を直接支援するのではなく、EUの一般予算収入となり得ることである。
また、CBAMの負担は一度に最大化するわけではない。EU排出量取引制度の無償排出枠が段階的に削減されるのに合わせ、CBAMの適用係数は2026年の2.5%から、2027年5%、2028年10%、2029年22.5%、2030年51.5%へと上昇する。
そのため、2030年の収入規模は、炭素価格、輸入量、検証済み排出量、対象品目の変更によって大きく変わり得る。特定の数字を確定値として扱うのは適切ではない。
閣僚声明による外交的な批判だけで、WTO紛争が始まるわけではない。正式な提訴には、まず加盟国が協議を要請し、解決しなければパネル手続きに進む必要がある。
法的な争点は、CBAMが輸入品や外国の生産方法を実質的に差別しているかどうかになる可能性が高い。一方、EUは、CBAMは域内企業が負担する炭素コストを反映した制度であり、輸出国ですでに支払われた炭素価格も考慮できること、さらに環境目的を追求していることを主張するとみられる。
確認できる資料では、南アフリカが提訴への関心を示し、インド、中国、ブラジルが法的・公平性の観点から懸念を表明していることは示されている。しかし、中国がCBAMに関するWTO紛争をすでに提起したことや、BRICSが共同でWTO提訴を決めたことまでは裏付けられていない。
EUとの通商交渉や協定は、協議、技術協力、制度調整の場を提供する可能性がある。ただし、それだけでWTO提訴のリスクがなくなるわけではない。
最も慎重な見方をすれば、CBAM証書の負担が拡大するにつれ、対立が激しくなる可能性はある。一方で、BRICSによる協調的なWTO訴訟がすでに確定したと判断する根拠は、現時点で確認されていない。
拡大したBRICSは、資源、金属、製造業の主要輸出国を含むため、この問題は単なる環境規制を超えた政治・通商上の争点になっている。ただし、BRICSが世界貿易に占める正確な割合については、今回確認できた資料から確定的な数字を示すことはできない。