株主資本については、リオ・ティント以外の投資家との協議も続いています。マキューエン・カッパーは、株式市場への新規株式公開(IPO)を2026年後半に実施する選択肢も検討しており、これによって必要な株主資本の一部を調達し、親会社マキューエン・マイニングの財務負担を抑える狙いがあります。
既存株主が新株発行に応じなければ、大規模な資金調達によって持分は希薄化します。現時点の株主構成は、マキューエン・マイニングが約46.3〜46.4%、ニュートンを通じたリオ・ティントが17.2%、自動車大手ステランティスが約14.2%で、残りをその他の投資家が保有しています。
資金調達は株式投資の協議だけではありません。マキューエン・カッパーは、約24億ドルの融資パッケージを組成・管理する国際金融機関と契約を結んだと説明しています。融資先の金融機関名はまだ公表されていません。
また、米国輸出入銀行(U.S. Export-Import Bank)を含む複数の輸出信用機関(ECA)とも協議しています。輸出信用機関は、自国製の設備・機械の輸出に関連して融資や保証を提供する政府系機関です。こうした支援が実現すれば、アルゼンチンで大型鉱山を建設する際の政治リスクや資金調達リスクを抑え、融資条件を改善できる可能性があります。
ただし、これらは現時点で最終的に確約された借入金ではありません。融資契約の締結、各機関の承認、プロジェクトの最終投資決定など、今後も複数の手続きが残されています。
ロス・アズレスは、アルゼンチン西部サンフアン州に位置する大規模な銅開発案件です。世界で最大級の未開発銅プロジェクトの一つで、未開発案件として世界トップ10に入るとされています。建設・操業に向けた環境承認を取得しているほか、アルゼンチンの大型投資促進制度「RIGI」にも認められています。RIGIは、長期的な税制・法制度・通関上の安定性を提供する制度です。
2025年のフィージビリティ・スタディーのベースケースでは、鉱山寿命は約22年。操業開始後5年間の銅カソード生産量は年平均約20万5,000トン、鉱山寿命全体では年平均約14万8,000トンと見込まれています。銅精鉱ではなく、加工度の高い銅カソードを生産する点も特徴です。
同スタディーは、銅価格を1ポンド当たり4.35ドルと仮定した場合、税引後の正味現在価値(NPV、割引率8%)を約29億ドルと試算しています。C1キャッシュコストは1ポンド当たり約1.71ドルとされ、比較的低コストで生産できる可能性が示されています。埋蔵量は銅約102億ポンドとされています。
リオ・ティントにとって、ロス・アズレスへの追加投資は、銅事業の成長余地を確保する手段です。プロジェクト全体を買収することなく大型銅資産へのエクスポージャーを増やせるうえ、開発資金の調達や建設の進捗を見ながら、将来の関与を深める選択肢も残ります。
同時に、ニュートンの浸出技術を実際の大型鉱山に適用する機会にもなります。リオ・ティントは、この技術によってエネルギー、水、温室効果ガス排出の負担を抑えながら、より多くの銅を回収できる可能性を探っています。
ロス・アズレスは、リオ・ティントにとって資源量だけでなく、技術の実証、開発金融、将来の生産能力を一体で評価できる案件です。約6億ドルの出資が実現すれば、経済性に対するリオの確信を示すシグナルと受け止められる可能性があります。
リオ・ティントとの協議が報じられたことで、投資家はマキューエン・マイニングが保有するマキューエン・カッパー株の価値に改めて注目しました。市場では、ロス・アズレスの開発が進めば、親会社の銅事業持分に再評価余地があるとの見方が意識されています。
ただし、報道をもって取引成立とみなすことはできません。交渉が決裂したり、出資額や発行価格が変更されたりする可能性もあります。また、実際の株主価値への影響は、最終的な評価額、希薄化率、借入条件、銅価格によって左右されます。
より大きな背景には、銅の供給確保があります。新たな大型銅鉱山は、巨額の資本を必要とし、許認可や建設にも長い時間がかかります。一方、電力網の増強、再生可能エネルギー設備、電気自動車、データセンターの建設は銅需要を押し上げています。供給の立ち上がりが遅いなかで需要が増えれば、すでに環境承認を得て、実現可能性調査と資金調達を進めているロス・アズレスの戦略価値は高まります。
つまり、今回の協議の焦点は約6億ドルという金額だけではありません。リオ・ティントが、将来の銅供給不足に備え、技術と資産の両面からロス・アズレスを成長の選択肢として評価している点にあります。もっとも、同プロジェクトが実際に建設へ移行し、2020年代末の生産目標を達成できるかどうかは、今後の株式・債務調達と最終投資決定にかかっています。