コヒーレントな光は、別の量子系を制御された形で駆動したり、量子バッテリーを充電したりするために使える可能性がある。つまり、そのエネルギーは不可逆的に捨てられたものではなく、まだ利用可能な資源として残っている。この実用上の意味で、コヒーレント成分は仕事、あるいは出力パワーとして分類される。
ただし、光子一個一個に「これは仕事」「これは熱」という固定された属性があるわけではない。分類は、物理的な状況に依存する。出力光を集めて別の過程に利用できるなら仕事として扱い、不可逆的に失われるなら熱として扱う。熱や仕事をどう定義するかは、系の自由度にアクセスできるかどうかとも関係している。
半古典的な描像では、共振器は外部から決められたコヒーレントな光によって駆動される。この光は系にパワーを供給するが、存在しているだけでエントロピーを生む熱浴として扱われるわけではない。
今回の入力・出力理論は、完全に量子化した共振器モデルから出発して、この半古典的な描像を再現する。コヒーレントな出力光を利用可能な仕事として計上すると、出力パワー、共振器で実際に散逸する熱流、エントロピー生成の計算結果が、古典的な予測へ近づいていく。
これは単なる数式上の整合性にとどまらない。量子理論は、光の場が半古典的な領域に入ったとき、対応する古典理論へ移行できなければならない。研究チームは、その対応を成立させるには、利用可能なコヒーレントなエネルギーと、散逸を生む揺らぎを分けて収支をつける必要があることを示した。
従来の扱いでは、共振器から出ていく光子の流れをすべて熱として計上することがある。出力が本当に捨てられる場合には妥当な近似になり得るが、光が強くコヒーレントで、しかも利用可能な状態にある場合には問題が生じる。
半古典的な極限へ移行する過程で、従来の収支では、ますますコヒーレントになる駆動光に対してもエントロピー生成を割り当て続けることになる。その寄与は古典的な極限で消えるどころか、用いられたスケーリングのもとで発散し得る。その結果、量子モデルが古典的なエントロピー生成の予測を再現できなくなる。
仕事と熱の配分を誤ることで、エネルギー収支の見え方も変わる。報告された解析では、半古典的な予測とは反対の符号を持つパワーが導かれる場合がある。つまり、実際にはエンジンのように出力している状態を入力と見なしたり、その逆が起きたりする。これはエネルギー保存則の破れではなく、熱力学的な帳簿のつけ方が適切でないことによる。
ここでは、熱力学的不確定性関係も関わってくる。大まかに言えば、この関係は、ある電流をどれだけ精密に測れるか、電流の平均値がどれほどか、そしてその流れを維持するためにどれだけエントロピーが生成されるかを結びつける。古典的なマルコフ系には標準的な下限がある一方、量子コヒーレンスによって、その古典的な境界の外側に出る挙動が可能になる。
次の候補として注目されるのが、強結合領域で現れるフォトンブロッケードや駆動散逸型量子相転移だ。強い結合は、非線形な光子統計、非古典的な相関、臨界揺らぎを生み出す。こうした特徴は、量子と古典の揺らぎの境界をよりはっきりさせ、古典的な熱力学的不確定性関係がどこまで通用するかを検証しやすくする可能性がある。
フォトンブロッケードの崩壊は、一次の駆動散逸型量子相転移の一例になり得ると提案されている。系の動的な状態が急激に変わる場面で、熱力学的不確定性関係がどのように振る舞うかを調べるうえで、格好の舞台となる。