問題の出発点は、製錬・精錬所より上流にある鉱山だった。チリやコンゴ民主共和国(DRC)など主要産地での生産リスクや操業障害が、精錬銅の原料となる銅精鉱の供給見通しを悪化させた。8月初旬の上昇は、世界の需要が一斉に強くなったというより、供給側の不安が価格を押し上げた面が大きい。
その状況を裏付けるのが、銅精鉱の処理・精製費(TC/RC)だ。2026年の年間ベンチマークは1トン当たりゼロドルとなり、スポット料金はマイナスに転じた。これは一部の精錬所が、精鉱を確保するために鉱山会社へ実質的に支払っていることを意味する。精錬能力よりも、処理する原料のほうが不足し、交渉力と利益の配分が鉱山側へ移っている。
もちろん、TC/RCがゼロまたはマイナスだからといって、銅価格が永久に高止まりするわけではない。精錬所が減産すれば原料需要は弱まり、価格高騰で工場や建設会社が購入を先送りすることもある。鉱山の復旧や輸送の正常化も、逼迫を和らげる可能性がある。ただし、今回の制約が精錬能力不足ではなく、精鉱の入手難にあったことは明確だ。
需要側の要因も無視できない。AIデータセンターの増設には、送電・配電設備、冷却システム、バックアップ電源などの大規模な電力インフラが必要になる。再生可能エネルギー、電力網投資、電気自動車、社会全体の電化も、銅を多く使う設備に支えられている。
こうした需要は、銅相場に強い「底」を与えた。とはいえ、AIが8月の上昇を単独で引き起こしたという意味ではない。構造的な需要が続くなかで、鉱山の供給障害、米国の関税を見込んだ買い付け、在庫減少が同時に起きたことが、急騰の直接的な引き金になった。
物流面では、ホルムズ海峡をめぐる混乱も負担を増やした。硫黄や硫酸は、銅鉱石の一部を浸出させる工程などで使われる重要な投入材だ。S&P Globalは、ホルムズ海峡の混乱によって2026年上半期の銅採掘コストが5.1%、1ポンド当たり10セント超押し上げられたと試算している。上昇の大部分は、硫黄関連を含む薬品コストによるものだった。
別の分析では、ペルシャ湾からの海上硫黄輸送が大幅に減少し、硫酸も銅の溶媒抽出・電解採取(SX-EW)工程にとって重要な原料だと指摘された。影響の正確な規模には不確実性があるものの、供給がすでに細っているなかで、輸送と投入材の制約が採掘をより高コストで不安定なものにした方向性は変わらない。
金融環境も追い風となった。ドル安、利上げ観測の後退、投資家のリスク選好の改善は、工業用金属全体への資金流入を促し、ドル建て商品の割安感を高めた。インフレヘッジを目的とした買いも、上昇を増幅したと考えられる。
ただし、こうしたマクロ要因は供給不足そのものを生み出したわけではない。資金が流れ込みやすい環境が、すでに逼迫していた現物市場の値動きを大きくしたと見るのが妥当だ。
銅は8月の米国先物の急騰より前から、供給不足を織り込んでいた。2026年1月にはLME価格が一時1トン1万4500ドルを超え、その後も8月に同水準へ接近した。過去最高圏を何度も試したことは、一時的な値動きというより、サプライチェーン全体の問題に市場が反応していたことを示している。
現時点で最も無理のない見方は、「長期的には強気だが、短期的には脆い」というものだ。今後、価格を左右する主なポイントは次の通りである。
要するに、今回の銅の最高値は、AIや電化という息の長い需要と、すぐに引き渡せる金属の急激な不足がぶつかった結果だった。在庫が低水準のまま鉱山障害が続けば、高値は維持されやすい。一方、物流が正常化し、精錬所が減産し、中国需要がさらに弱まり、鉱山が復旧すれば、同じ相場が短期間で巻き戻る可能性もある。