英中銀は、現在の対立が始まる前から、ベネズエラの金約31トンを保管してきました。英国が2018年にニコラス・マドゥロ政権を承認しなくなった後、ベネズエラ中央銀行に指示を出す権限と、海外にある外貨準備を管理する権限をめぐって、国内の複数の当局が競合する状態になりました。
そのため問題は、英中銀が単純に金の引き渡しを拒んでいるというよりも、英国がどのベネズエラ当局を正統な指示主体と認めるかという問題と、長期化する訴訟が絡み合ったものです。英国の裁判手続きでは、金の処分を指示する法的権限を持つベネズエラ側の機関がどこなのかが判断される見通しです。英中銀と英国外務省は、金を引き渡す方針を公に示していません。
新型コロナウイルス感染症の流行期にも、ベネズエラ当局は金へのアクセスを求め、売却代金を国連経由で医療支援に充てる案を示していました。しかし、報道によれば、この試みは英国の裁判手続きで退けられています。
大規模な人道危機は、すでに厳しい経済状況にあったベネズエラをさらに圧迫しました。中央銀行によると、7月の月間インフレ率は約20%に達し、政府関係者は復興とロンドンに保管された金の回収を緊急の優先課題に挙げています。
政治的な正統性や権力の所在をめぐって対立してきた政府と野党にとっても、被災地の復興資金を確保したいという利害は共通しています。今回の合意は、こうした必要性が対立を一時的に上回った結果といえます。
もっとも、ベネズエラ国内で政治的な合意が成立したからといって、英国での法的問題が解決するわけではありません。
回収資金を米財務省の管理下にある口座に置く仕組みは、資金の流れを国外から監督する手段になります。支持者は、国際監査を組み合わせることで、資金の流用を防ぎ、ベネズエラ国内の対立する勢力や外国政府に透明性を示せると説明しています。
一方で、この仕組みは、ベネズエラの国家資産の管理に対するワシントンの影響力をさらに強める可能性があります。報道によると、米国はベネズエラの輸出収入、とりわけ原油販売収入について、支出の時期や金額を管理してきました。ベネズエラ当局は別途、国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)約45億ドルや、米国と欧州にあるその他の凍結資産へのアクセスも求めています。
つまり、米財務省口座案は、資金管理の説明責任を高める一方、ベネズエラの資産運用における米国の関与を深めるという政治的な敏感さも抱えています。
直ちに金塊が移送されるわけではありません。ベネズエラ政府と参加した野党勢力は、資産回収を求める共同の主張を英国側に示す必要があります。同時に、英国の裁判所は、金の処分について有効な指示を出せるベネズエラ側の当局がどこなのかを判断しなければなりません。
今後の報道を見るうえで最も大切なのは、「金の回収を目指す合意」と「裁判所が承認した金の引き渡し」を区別することです。現時点で報じられているのは前者であり、後者ではありません。英国での司法判断と保管・管理の問題が解決するまで、31トンの金は復興資金として期待される資産であって、すぐに使える現金ではありません。