Gravisの中核製品は、専用のショベルカーではなく、既存の重機に取り付ける後付け型の自律制御システムだ。「Gravis Rack」と呼ばれるキットは、Caterpillar、John Deere、Volvo、JCB、日立建機(Hitachi)をはじめ、Case、Develon、Sumitomo、Yanmarなどの機械に対応するとされる。
さらに、後付けハードウェアと連携するソフトウェア支援レイヤー「Gravis Copilot」も提供する。運転席での支援や3Dガイダンスから、遠隔監督、完全自律運転まで、複数段階の自動化を想定したシステムだ。
ここで重要なのが、特定メーカーに縛られない「メーカー中立」の設計である。建設会社は、価格や納期、販売店との関係、整備体制などを考慮し、複数ブランドの機械を使い分けることが多い。既存の車両群を横断して動作するシステムなら、保有機械をすべて入れ替えたり、単一メーカーに統一したりせずに自律化を進められる可能性がある。
Gravisによると、システムはカメラや各種センサー、機械のテレメトリー、重機から得られる物理的なフィードバックを組み合わせて制御判断を行う。Dominic Jud氏は、熟練オペレーターがエンジンの負荷、機体の振動、油圧の抵抗感などから地盤の変化を読み取ることになぞらえて説明している。
同社のモデルは、こうした信号を使って土壌や地下の力に応じた操作を行うことを目指す。シミュレーションを使った訓練によって、異なる機種や環境にも対応できるようにするという。
実際の用途は、あらかじめ決めた経路を走行するだけではない。掘削、溝掘り、大規模な土工、ダンプトラックへの積み込みなど、地形が変化する作業への対応が想定されている。英国政府の支援を受けたCAM Pathfinderプロジェクトでは、Flannery Plant Hireとともに6台のショベルカーを使い、高度に自動化された土工を検証している。
Gravisは、同社の技術によって、熟練オペレーターによる最高水準の手動運転と比べて、現場の生産性を最大30%向上できると主張している。安全性の向上や手戻りの削減、測量・危険箇所のマッピングへの活用も掲げる。
ただし、この30%という数字は、現時点で確認できる資金調達関連の資料において、独立機関が監査した業界標準の数値ではない。企業側が示した主張であり、実際の効果は、使用する機械、作業内容、地盤条件、オペレーターの運用方法、自動化のレベルなどによって変わる。
Gravisは、同社のシステムが4大陸のインフラ関連顧客の現場で導入されていると説明している。これまでの発表や業界報道では、Holcim、Taylor Woodrow、HD Hyundai、Flanneryなどとの導入・提携も紹介されてきた。
なかでもFlanneryとの取り組みは、商用化の観点で注目される。両社は、Gravis Rackを搭載済みの自律型ショベルカーをレンタルで提供するモデルを進めている。顧客は自社の全車両を改修し、社内にロボティクス部門を立ち上げる代わりに、必要なプロジェクトで自律化された機械を借りられる。
建設自動化の導入障壁を下げる可能性がある点が、このモデルの強みだ。建設会社にとって、いきなり保有車両全体を改修するより、まず1つの案件で自律型建機をレンタルして試すほうが判断しやすい場合がある。
SafeAIやTeleoも、建設機械の自動化や遠隔操作に近い領域で事業を展開する企業だ。Gravisが打ち出す違いは、複数メーカー・複数サイズの重機に対応する、学習ベースで機械に適応するプラットフォームにある。
もっとも、これは現時点では市場で確定した優位性ではなく、Gravisが掲げる事業上の仮説だ。実際の現場で安定して動作するか、安全性の検証要件を満たせるか、統合コストを抑えられるか、導入後のサポートを拡大できるかが問われる。
建設現場では、ほこり、凹凸のある地面、変化する積載量、人の予測しにくい動きなどが同時に存在する。管理されたデモ環境では見えにくい弱点が、商用現場で表面化する可能性もある。
今回の投資は、ソフトバンクのAI戦略を、ソフトウェアや基盤モデルだけでなく、現実世界で認識し、判断し、動くシステムへ広げるものだ。いわゆる「フィジカルAI」では、人や機械の近くで安全に動作しながら、産業顧客に測定可能な価値を提供しなければならない。
ソフトバンクはロボティクス分野への投資も拡大している。スイスのエンジニアリング企業ABBのロボティクス部門について、企業価値53億7,500万ドルで買収する契約に合意しており、AIとロボティクスを組み合わせる取り組みの一環と位置づけている。ただし、利用可能な発表時点では、買収は規制当局の承認などを条件としていた。
また、ソフトバンクはロボティクス関連投資を集約する中間持株会社「Robo HD」を設立している。別途、OpenAIへの追加投資について最大400億ドルの契約を結んでおり、ソフトバンクの実質的な投資額は300億ドルとなる見込みだ。取引完了後の累計投資額は646億ドル、持分は約13%に達する見通しだが、これらは取引の完了と最終条件を前提とする。
Gravisは、この戦略における「応用レイヤー」になり得る。つまり、AIによる認識・判断を、実際の建設機械と大規模な産業市場に接続する役割だ。ただし、ソフトバンクがすでにAIとロボットを統合した単一のプラットフォームを完成させた、と見るべきではない。直近の焦点は、Gravisが柔軟な後付けシステムを、再現性のある信頼できる建設オペレーションへ変えられるかどうかにある。
今回の大型投資は、建設現場の自律化が、単発の実証実験ではなく、プラットフォーム事業として評価され始めていることを示す。Gravisは、世界中ですでに稼働している大量の重機を対象に、メーカーが全製品を再設計するのを待たず、自律機能を後付けで提供しようとしている。
この戦略は、広い市場への入り口になり得る。一方で、解決すべき問いも明確だ。1つの自律制御基盤で、異なるメーカーや機種にわたり安定した性能を出せるのか。安全性が重視される作業を、建設会社は任せられるのか。現場の生産性向上は、実際の商用案件でも維持できるのか。
2億ドルの資金は、Gravisがこうした問いに大規模に答えるための余力を与える。報じられた10億ドルの評価額が妥当だったかどうかは、調達額の大きさではなく、フィジカルAIの主張を、信頼できる稼働実績、安全な作業、そして建設顧客にとって繰り返し成立する経済性へ変換できるかによって決まるだろう。