Binanceは2023年9月、ロシアから全面撤退すると発表していた。今回報じられたのは、ロシア国内で通常の個人向けサービスを再開していたという話ではなく、捜査当局から過去のアカウント情報を求められ、それに応じた事例だ。
Binanceは、世界各国の法執行機関から寄せられる合法的な情報要請について、適用される法律、プライバシー規則、規制上の要件に従って協力すると説明した。同社はまた、法律を制定したり、犯罪容疑を決定したり、政府が法的手続きで情報をどう使うかを管理したりする立場ではないと述べている。
ロイターによると、今回の要請はBinanceの法執行機関向け情報請求プロセスを通じて処理された。ただし、利用された正確な技術的送信経路や、ロシア側が裁判所命令を提示したかどうかは、公開された報道からは確認できない。
問題を複雑にしているのが、ベレンキー氏がブルガリアの在留許可証を持っていた点だ。法律専門家はロイターに対し、Binanceが同氏をEU域内の居住者として扱っていた場合、EU一般データ保護規則(GDPR)が適用される可能性があると指摘した。
その場合、個人情報をロシアへ移転するには、適切な法的根拠や追加の保護措置が必要になる可能性がある。しかし、Binanceが同氏の居住地をどのように分類していたのか、どの法的根拠に基づいて情報を移転したのかは、今回の報道では明らかになっていない。また、移転がGDPRに適合していたかどうかも確定していない。
専門家は、これほど機微性の高い個人情報や金融情報を開示する前に、裁判所命令が必要、あるいは少なくとも適切だったのではないかという点も問題視した。ロシアでは、政治活動やウクライナ関連の活動をめぐる事件でテロ対策法や過激派関連法が適用されているため、この懸念はより大きくなる。ただし、今回のケースで裁判所命令が存在したかどうかを、ロイターは確認していない。
今回の件は、Binanceとロシア当局の過去の接点をめぐるロイターの報道も想起させる。ロイターは以前、Binanceの代表者が2021年、ロシアの金融情報機関と面会したと報じていた。当時、ロシア側は、アレクセイ・ナワリヌイ氏にビットコインを寄付した人物の特定に協力を求めていたという。
もっとも、ここで区別すべきなのは、ベレンキー氏の事件が具体的な情報開示の証拠を示している一方、Binanceがウクライナ関連の寄付者全員について組織的に情報を提供していたことを証明するものではないという点だ。
今回の報道は、暗号資産取引所が市場から撤退した後も、過去の取引記録が捜査や訴追で利用され得ることを示している。同時に、国境をまたいで事業を展開する取引所が、合法的な捜査協力と利用者のプライバシー保護をどう両立させるのかという問題も浮き彫りにした。
今後も不明なままなのは、ロシア当局の要請が relevant legal standards(適用される法的基準)を満たしていたのか、Binanceが裁判所命令または別の有効な法的根拠を持っていたのか、そして同社がベレンキー氏にどのプライバシー規則を適用すると判断したのかだ。ロイターの報道は、情報が開示され、ロシアの事件で使われたことを示しているが、これらの法的問題に対する最終的な答えまでは示していない。