ただし、株価の上昇率と利益予想の増加率だけを単純に比べると、42%の株価上昇と80%の利益増加から導かれるPERの低下は約21%になる。約30%という数字は、対象となる期間や構成銘柄、利益予想の集計方法が完全には同じでないことを反映していると考えられる。
ここで注意したいのは、予想PERの低下が、そのまま株価の割安さを意味しないことだ。現在の株価が合理的に見えるには、AIによる売上高の大幅な増加、高い利益率、クラウド支出の拡大、データセンター投資から得られる収益が、実際に実現し、しかも長く続く必要がある。
つまり、「株価が上がったのにPERが下がった」という現象は、現在の実績利益を基準に割安だという証拠ではない。将来の利益が非常に大きく伸びるという予測を、株価が織り込んでいる可能性がある。
AIインフラが過剰供給になったり、企業のAI関連支出が予想を下回ったり、競争によって利益率が低下したりすれば、アナリストは将来利益の予想を引き下げる可能性がある。
株価が変わらなくても、分母である予想利益が減れば予想PERは上昇し、株は機械的に「より割高」に見える。その結果、投資家が株価を再評価し、下落が始まることがある。ECBは以前から、AI関連株の評価が投資家の期待の変化に弱い点を指摘しており、DeepSeek-R1の登場時に見られた市場反応も、その脆弱性を示す事例として挙げている。
イングランド銀行(BoE)は、ECBよりもドットコム・バブルとの比較を明確に打ち出している。一部の米国株価指数のバリュエーション倍率がドットコム期のピークに近い水準にあるとし、AI関連株がS&P500の時価総額の約44%を占めるとも指摘した。
AI関連企業の時価総額の増加は、ゴールドマン・サックスの推計で約27兆ドルに達し、現在の米国株市場の約36%に相当するとされる。この規模を考えれば、AI技術そのものに実際の進歩があったとしても、投資テーマの揺らぎは金融市場全体にとって重要な問題になる。
今回のECBの論点は、AI株をドットコム期と同一視することではない。現在の主要企業は、当時の多くの企業とは異なり、実際に利益とキャッシュフローを生み出している。
それでも、株価が実現利益を上回るペースで上昇し続けたり、織り込まれた利益成長が実現しなかったりすれば、急な調整が起きる可能性はある。米国株を保有する投資家は世界中に広がっているため、その影響は米国市場にとどまらず、欧州の金融市場にも波及しうる。
したがって、ECBが示しているのはバブル認定ではなく、強気の利益予想、市場集中、そして高い評価水準が重なった状態を軽視すべきではないという警告だ。