マースクの紅海復帰が慎重ながらも楽観的な兆しを見せる一方、世界の海運安全保障の全体像は依然として深刻であり、とりわけ世界で最も重要なエネルギーの要衝であるホルムズ海峡の状況は極めて厳しい。
イラン紛争前、ホルムズ海峡を通過する船舶は1日あたり130隻以上だった 。しかし、8月のある一日にはわずか14隻の通過が確認され、そのうち11隻はイラン管理のルートを使用していた
。月間平均では6月が33隻、7月は26隻にとどまる
。2月下旬から8月5日までに追跡された2,339回のホルムズ海峡通過のうち、54%以上が「ダーク・トランジット(AIS非常用船位通報装置をオフにした航行)」 だった 。イラン管理ルートが全体の29%、国際海事機関(IMO)が承認したルートの利用はわずか約9%に過ぎない 。
ホルムズ海峡通過に対する戦争保険料は船価の7.5%~10% に達しており、過去の不安定期でも上限とされた1~3%をはるかに超えている 。27万トン級タンカー1隻で、追加保険料は航海1回あたり約800万~1,000万ドルに上る 。保険会社は24~48時間ごとに補償内容を見直しており、一部の引受会社は船主に対してホルムズ海峡の航行を控えるよう助言している 。
紅海の入り口であるバブ・エル・マンデブ海峡についても海上保険料は高騰しており、両海域は現在「戦争地域」とみなされている 。フーシ派による紅海航行への攻撃は継続的な脅威であり、クラークCEOが完全復帰の条件として「イエメンで何も起きなければ」と明言したのもこのためである 。
原油市場は外交の進展や後退のヘッドラインに極めて敏感に反応している。8月4日には米国とイランの外交的解決への期待からブレント原油が5.3%(4.41ドル)下落し、終値は79.36ドルとなった 。しかし8月11日にはホルムズの膠着状態が強まり、1バレル=90ドルまで急反発 。ゴールドマン・サックスは、米イラン合意が確認されるまではブレント原油は80~90ドルのレンジで推移すると予想している 。
予測市場では、ホルムズ海峡の正常な航行再開の確率は1%未満と評価されている。米国・イラン・オマーン間での暫定合意交渉が行われているにもかかわらず、実質的な再開には極めて悲観的な見方が支配的である。
マースクの慎重なスエズ復帰は、コンテナ船に限定された、段階的な航路の再ルーティングであり、安全状況が限定的に改善した特定サービスにおいて喜望峰迂回と比べ7~14日の輸送日数短縮を実現するものだ。しかし、それは以下のような過酷な現実の中で行われている。
紅海の部分的な再開とペルシャ湾の完全な麻痺の間にあるギャップは、依然として計り知れない。マースクの段階的復帰は現実の動きだが、それは世界の海運が「正常に戻った」という意味では決してない。