流入が本格化したのは2026年7月30日。TikTokやMeta系プラットフォームで「モロッコとスペイン領セウタの国境が開かれた」という主張が急速に広がった。欧州、スペイン、モロッコの当局は、この偽情報が国境警備を混乱させようとする犯罪組織による組織的な工作だったとみている。モロッコによる国家レベルの関与を示す証拠はなく、むしろモロッコの国境警備隊はあまりの人数と速さに最初は対応できなかった。このデマは、くすぶっていた移民圧力を一気に人道的・政治的大惨事へと変えた。
推定8万人(大半が若い男性)が数日間にわたってモロッコからセウタに越境した。特に7月30日だけで約6万人が押し寄せた。死亡者数は海岸沿いやタラハル海岸の防波堤などで遺体が発見されるにつれ増加。8月2日までに、スペイン当局は少なくとも72人の死亡を確認した。死因は溺死、将棋倒し、フェンスからの転落など。8月3日までに約6万9500人がモロッコに帰還または強制送還されたが、なお数千人がセウタに残り、その中には数百人の未成年者も含まれていた。
スペインの対応は即座かつ強硬だった。ペドロ・サンチェス首相はセウタに急行し、越境を「主権侵害」と非難。強制送還の加速を宣言し、軍と警察の増援を派遣した。
この危機は欧州連合(EU)内に外交的な火種をまき散らした。フランスはスペインとの国境で再び検問を実施し、警察の人員を5倍の334人に増強。イタリアはさらに踏み込み、スペインとのシェンゲン協定の自由移動を1か月間停止すると発表した。欧州各国の極右・反移民政党はこの機に乗じ、EUの国境政策強化を要求。スペインのホセ・マヌエル・アルバレス外相は一部のEU加盟国の対応を「非協力的で断絶を生む」と非難した。EU27か国中22か国は共同書簡で国境での協調行動を求め、8月4日には閣僚級の緊急テレビ会議が開かれた。
米国からは、ドナルド・トランプ前大統領が即座にこの事態を利用し、バイデン政権とスペインのサンチェス政権の移民政策を攻撃。「侵略」と表現し「中間選挙の争点にすべきだ」と述べた。
虚偽情報の拡散が死者を出した越境の直接的きっかけとみなされたため、EU欧州委員会は前例のない措置を取った。
セウタ危機は、DSAがプラットフォームに対し、バイラル偽情報による現実世界の被害を防ぐための迅速な行動を義務付けられるかどうかの試金石となった。EU当局は、遵守しない場合、正式な調査や罰金の可能性も示唆している。