被害の規模を示す数字はいくつかあり、それぞれ推計範囲が異なります。
| 推計額 | 対象範囲 | 出典 |
|---|---|---|
| 約31億ユーロ | 火災シーズン最初の2ヶ月間における、被害の大きかった5カ国の直接的な経済損失 | フィナンシャル・タイムズ(FT)分析(2026年8月初旬) |
| 150億ユーロ超 | 今夏の欧州全体の山火事による総経済コスト | ロイターが引用する専門家の見積もり(2026年8月6日) |
| フランスだけで100~150億ユーロ | フランスの総損害見積もり(保険損害は数十億ユーロ単位) | 信用格付け会社モーニングスターDBRS |
| 156~191億ユーロ | 財産、インフラ、消火費用などを含む総損害・経済損失の推計 | アクウェザー(2026年8月5日) |
FTの約31億ユーロという数字はシーズン初期の限定的な範囲を捉えたものですが、EU委員会自身が試算するEU全体の年間平均被害額(25億ユーロ) をすでに上回っており、被害の深刻さがわかります。
欧州委員会は危機に対処するため、予防を最優先する統合的アプローチに基づいた包括的な一連の対策と予算案を導入しています。
2026年3月25日、予防・準備・対応・復旧を網羅する枠組みを発表 。特に生態系を基盤とした予防を重視し、劣化した生態系の回復、計画的な放牧や森林管理による「火に強い景観」づくりを推進します 。この戦略は、火災への回復力を「コスト」ではなく「戦略的投資」と捉えることを目指しています 。
2026年6月29日にEU理事会で採択。法的拘束力はないものの、政治的に重要なこの勧告は、加盟国に対し景観管理と生態系再生への投資を強く促します 。具体的には、湿地、泥炭地、河川、氾濫原を回復し、自然の防火帯とすることを推奨しています 。
2026年夏、EUは 14カ国から777人の消防士 を南欧6カ国のリスク地域に事前派遣。航空機や緊急対応専門家も含め、過去最大の事前配備体制を敷きました 。さらに、キプロスには新たな地域消防基地も設置されました 。
既に 6500万ヘクタール の土地を山火事対策プロジェクトでカバーしており、これが予防のための主要な既存ツールとなっています 。
2026年8月、欧州委員会は自然保護と生態系回復のための標準アクションプロジェクトに対し、推定 1億7350万ユーロ(約280億円) の予算枠を発表しました 。
EUは 2026年と2027年のEU総予算の10%を生物多様性に充当 することを計画。2024年の7.5%から引き上げられ、自然再生と山火事予防策を直接支援します 。
欧州委員会は、土地管理に関連する予防と再生への投資を継続・拡大する方針です 。これには、農家や森林所有者がより回復力のある生産システムへの移行を進めることを支援する農業環境・気候対策も含まれます。
欧州の山火事危機は転換点を迎えました。記録的な経済損失と頻発する異常気象により、ブリュッセル(EU本部)は戦略的な舵切りを余儀なくされています。新しいアプローチが認識しているのは、「健全な生態系」こそが最も効果的で費用対効果の高い防火帯だという点です。湿地は水分を保ち、適切に管理された森林は燃料を減らし、家畜の放牧が行われた景観は延焼を防ぎます。残された課題は、EU加盟国がこの戦略の野心に匹敵する投資を実際の現場で実行できるかどうかにかかっています。