2026年8月2日時点の充填率57.15%(645.97 TWh) は、Gas Infrastructure Europe(GIE)のAGSI+データベース(2009~2011年まで遡る)において、8月初旬の数値としては過去最低です。ブルームバーグは「約20年で最も低い水準」、ロイター通信は「2011年以来の記録的低さ」と報じています。
現在の注入ペースは1日あたり約**+0.26ポイント**で、季節的な通常ペースとほぼ同水準です。しかし、2025/2026年の冬を経て注入シーズンのスタートが歴史的に低い水準だったため、季節的な注入ペースだけでは構造的な赤字を埋められていません。オックスフォードエネルギー研究所の分析によれば、意味のある冬のバッファーを確保するには、2025年と同程度のLNG輸入量を注入シーズンを通じて維持する必要がありますが、世界的なLNG供給の逼迫を考えると、この目標は非現実的です。
EUの当初の規制目標である**「11月1日までに90%充填」**は、現在では達成不可能と広く見なされています。EUエネルギー規制当局協力機関(ACER)は2026年4月の時点で、イラン紛争による世界の燃料市場混乱を理由に、この目標を達成できない可能性が高いと警告していました。
これを受け、EUは価格高騰を招く必死の買い占め競争を避けるため、目標を**「12月1日までに80%」** へと静かに緩和しました。欧州委員会は3月、加盟国に対してガス貯蔵規則の柔軟性条項に基づき、充填目標を80%に引き下げることを正式に要請しています。
しかし、この緩和された80%目標でさえ、達成は不透明です。エクイノールのCEOは7月下旬、「欧州が80%に達する可能性は低い」と警告。欧州委員会自身の評価でも、80%は「冬を乗り切るのに十分」とされており、事実上、恒久的に基準が引き下げられたことを示しています。ボルトスタック・エナジーの分析によると、8月4日時点で80%目標を達成するには、残り85日間で約32ポイントの充填が必要であり、現在のペースではぎりぎりの状況です。
EU全体の数字は、各国間の深刻な実情を隠しています。
この乖離は、政策の違いを反映しています。国家が貯蔵義務を課し、供給源を多様化している国々が良好な成績を収める一方、市場任せの補填に頼る国々では、高止まりするスポット価格が貯蔵への投資意欲を削いでいます。
2026年1月26日、EUはREPowerEUガス規則(規則EU/261/2026) を正式に採択し、全てのロシア産ガス輸入の段階的廃止を法制化しました。同規則では、短期的なロシア産LNG契約は2026年4月から禁止、長期的なLNG契約は2027年1月1日までに終了、パイプラインガスは2027年までに全廃されることになっています。
こうした法的な約束にもかかわらず、2026年上半期のEUによるロシア産LNG輸入量は過去最高を記録しました。Kplerのデータによると、ロシアのヤマル施設からの輸入量は997万トンに達し、前年同期比で16~18%増加しました。ロシアは2026年第1四半期、EUにとって第2位のLNG供給国(総輸入量の13%を占める)でした。最大の買い手はフランス(360万トン)、ベルギー(290万トン)、スペイン(270万トン)でした。
この急増の背景には、禁輸前の「駆け込み需要」がある一方、深刻な供給不足という現実があります。米国とイランの戦争により世界のLNG市場は逼迫し、ロシア産LNGは調達可能な数少ない限界的な貨物の一つとなっています。イラン紛争によるホルムズ海峡の封鎖は、カタールからのLNG供給の約20%を世界市場から奪い、不足をさらに悪化させています。
価格高騰はすでに現実のものに。 欧州のガス基準価格は夏場にかけて急騰しています。世界的なLNG供給の逼迫、低い貯蔵量、イラン紛争が、2022年の危機再来を想起させています。さらなる供給途絶や寒波が発生すれば、価格はさらに跳ね上がる可能性があります。
冬の供給危機シナリオ。 もし2026/2027年の冬が平年より寒ければ、EUは深刻な供給不足に直面する恐れがあります。現在の貯蔵量では、暖房シーズンに備えるバッファーが非常に薄く、以下のリスクに対して極めて脆弱です。
ロイター通信によれば、仮に冬終了時の貯蔵量が30%しかなければ、夏場に約600億立方メートルのガスを注入する必要があり、これは歴史的に見ても困難な量です。もし冬の間に貯蔵量が20~25% を下回れば、EUは2022年を彷彿とさせる本格的なエネルギー危機に直面し、価格上限や消費削減の義務化、緊急ガス放出などの政府介入が行われる可能性があります。
これまでの政策的対応。 EUは既にガス貯蔵規則の柔軟性条項を発動し、充填目標を引き下げ、加盟国に共同購入を促しています。エネルギー連合タスクフォースは7月、「差し迫った供給安全保障上の懸念はない」「貯蔵充填目標は達成可能」と述べています。しかし、注入シーズンにおける需要に対する供給不足という構造的問題は解決されていません。5年平均との差は依然として大きく、POLITICOなどが指摘するように、貯蔵水準は「この時期としては例外的に低いだけでなく、歴史的に低い」状態が続いています。