本研究の最大の意義のひとつは、T2Tシークエンシングの手法がもはやヒトゲノムに限らず、他の生物種にも日常的に適用できる段階に達したことを示した点にある。研究を主導したUCサンタクルーズの大学院生Prajna Hebbar氏は、「日常的なT2Tゲノミクスによって、発見がより容易で確かなものになっている」と述べており、自動化パイプラインは将来的に一人ひとりの完全ゲノム配列を、現在の数分の一のコストで個人の医療参照情報として活用できる時代の幕開けを告げるものだと強調している。
研究チームは、ヒトにおいてアルツハイマー病およびパーキンソン病のリスク因子として知られる遺伝子座に対応する、マーモセットの76個の遺伝子のギャップのない高品質な参照配列を提供した。これにより、従来のドラフト配列を用いた場合よりもはるかに高精度な変異検出が可能になった。さらに、マーモセットにおけるこれらの遺伝子の遺伝的変異は、ヒトで疾患を引き起こすのと同じ機能領域に見られ、マーモセットが神経変性疾患研究のモデルとして極めて有用であることを改めて裏付けた。
完全な参照ゲノムとトランスクリプトームデータを組み合わせることで、研究チームは家族性早期発症アルツハイマー病の最も一般的な遺伝的原因であるPSEN1遺伝子の新規転写バリアントを同定した。これらの新規アイソフォームは、これまでの不完全なドラフト配列では検出不可能だったもので、神経変性における選択的スプライシングの研究に新たな道を開くものである。
PSEN1は、これまでに300以上の変異が報告されている早期発症アルツハイマー病の原因遺伝子であり、先行研究ではすでにPSEN1変異(C410YまたはA426P)をノックインした遺伝子改変マーモセットが作製され、アルツハイマー病関連バイオマーカーの早期出現を再現することが確認されている。今回のT2T完全参照ゲノムは、これらの変異を前例のない精度で研究するためのゲノム基盤を提供する。
完全ゲノム配列の解析から、マーモセットは非相同染色体間でリボソームDNA(rDNA)アレイを自由に交換するという、これまで観測されたことのない動的な再編成パターンを持つことが明らかになった。また、今回のギャップのない参照配列により、性別特異的なrDNA分布パターンも初めて検出された。
マーモセットゲノムは、T2Tアセンブリ手法がヒトゲノムだけでなく他の種にも日常的に適用できる段階に達したことを示す一連の研究の一環である。T2Tコンソーシアムは、ウェットラボのプロトコルとアセンブリアルゴリズムの改良を続け、当初のヒトT2Tプロジェクト時と比較して完全ゲノムの作製コストを大幅に削減している。このスケーラビリティはすでに他の研究でも明らかであり、同じコンソーシアムは6種の類人猿についてハプロタイプリゾルブド参照ゲノムを作製し、215本の染色体をテロメアからテロメアまで完全にシークエンスしている。
Hebbar氏が指摘するように、「日常的なT2Tゲノミクスは発見をより容易で確実なものにしており」、自動化パイプラインは、各人の完全ゲノム配列がその人独自の医療参照情報となる時代を、現在のコストの数分の一で実現する可能性を秘めている。