トライアルは、対象車両に対してソフトウェアアップデートまたはメール通知を通じて自動的にプッシュ配信される仕組みで、ユーザー側での事前申請や支払いは不要です。具体的な対象条件(ハードウェア要件や車種制限など)の詳細は公開されていませんが、該当する車両では期間中、システムが自動で有効化されます。
この2カ月トライアルは、テスラが2026年4月から開始していた1カ月トライアルに続くものです。そのため、オランダの一部のオーナーは、合計で最大3カ月間の無料FSDアクセスを得ている可能性もあります。
2026年5月21日~22日をもって、テスラは欧州および英国において、FSD(Supervised)の永続的な買い切りオプションを完全に終了しました。それまでの買い切り価格は、欧州で**€7,500**、英国で**£6,800**でした。今後FSDを利用する唯一の方法は、**月額€99(欧州)/月額£99(英国)**のサブスクリプションのみとなります。同時に、中間グレードの「Enhanced Autopilot」パッケージ(従来の買い切り価格€3,800)も廃止され、標準装備の「Basic Autopilot」のみが残ることになりました。
月額€99のサブスクリプションを6年以上継続して支払うと、従来の買い切り価格に達することになります。一方、数年おきに車を乗り換えるドライバーにとっては、サブスクリプションの方が総負担額が少なくなる可能性もあります。なお、以前にEnhanced Autopilotを購入したオーナー向けには、月額€49の割引価格でのFSDアップグレードが用意されています。
この動きは、テスラの欧州における収益モデルを完全に継続的なサブスクリプション収入へと移行させるものであり、既に米国で提供されている月額99ドルのサブスクリプションと足並みを揃えるグローバル戦略の一環です。
2026年8月4日、テスラのAI責任者であるアショク・エルスワミ氏は、自らのXアカウント上で、FSDがドライバーの手動による最高速度設定から離脱すべきだと明言しました。同氏によれば、FSDは各ドライバーの行動から暗黙のうちに嗜好を学習し、自律的に最適な速度を選択するべきだといいます。
エルスワミ氏は、手動の最高速度制限機能を「アンチパターン(逆機能)」と断じ、システムはユーザーが設定した天井に頼るべきではないと主張しました。同氏は「ユーザーの暗黙の嗜好をより良く学習することに取り組んでいる」と述べ、ドライバーが手動で速度をオーバーライドすることなく、FSDが自然に各オーナーの好む速度で走行できるようにすることを目指していると説明しました。イーロン・マスク氏も、将来のFSDはドライバーの「特定の介入」を記憶し、個人の嗜好に合わせて動作するだろうと示唆しています。
この哲学は、制限速度の厳格な遵守を求める欧州の規制当局の姿勢と真っ向から対立するものであり、後述する一連の規制当局との全面衝突の核心をなしています。
スウェーデン運輸庁(TRV)は、2026年4月30日付でEUの自動車技術委員会(TCMV)に宛てた書簡の中で、テスラが搭載する「Speed Offset」機能を削除しない限り、EU全域でのFSD承認に反対するよう勧告しました。
Speed Offset機能は、ドライバーが設定したマージン(例:制限速度+5km/h、または+5%)の範囲内であれば、システムが制限速度を超えて走行することを許容するものです。TRVは、自動運転システムが法律上の制限速度を組織的に超過することを認めれば、法の枠組みと自動化に期待される安全性向上の両方を損なうリスクがあると警告しています。
この問題を議論するため、EUの委員会会合が2026年6月30日に予定されましたが、最終的な投票はまだ行われていません。なお、スウェーデンのこの姿勢は突然のものではなく、2025年4月の内部文書においても、同庁がシステムの速度超過能力に懸念を表明していたことが明らかになっています。
2026年7月23日、フランスのフィリップ・タバロ運輸相は、現状のままのFSDに対するEU全域での承認にフランスは反対すると公式に発表しました。
フランスは、2つの具体的な安全性の懸念を挙げています。(1) システムがドライバーに制限速度を超えることを許容していること、(2) 特に市街地環境において、ドライバーの注意力を十分に維持できないこと、の2点です。フランスは、オランダのRDWが仮承認したような個別国承認がブロック全体に波及する方式ではなく、EU全域での調和のとれた承認を求めています。
フランスの反対は、テスラFSD技術の欧州全域での使用を承認するためのオランダ主導の取り組みに対して、EU加盟国政府が公に拒否の姿勢を示した初めてのケースとなりました。
スウェーデンとフランスだけが懐疑的なわけではありません。Reutersは2026年6月、テスラが欧州規制当局に対して、誤解を招く可能性のある衝突統計データを提出していたと報じており、同社の安全データに対する疑問は広がりを見せています。また、オランダ、デンマーク、フィンランド、ノルウェーも、ブロック全体での投票を前に懸念を示しています。
一方で、テスラのFSDに対する最初のEU承認は、2026年4月10日にオランダの車両認可機関RDWによって、18カ月以上のテスト走行と実証実験を経て発行されました。リトアニア、エストニア、デンマーク、ベルギーは、このオランダの承認を基に、自国領土内での暫定的な承認を認めています。ただし、EU全域での本格的な展開には、EU加盟27カ国のうち「特定多数決(15カ国以上)」の支持が必要となります。
現在、そして将来の欧州のテスラオーナーにとって、FSDをめぐる状況は急速に変化しています。無料トライアルはシステムを低リスクで試す良い機会ですが、規制上のハードルを考慮すると、欧州におけるFSDの長期的な価値は依然として不透明です。サブスクリプションモデルへの移行により初期費用は下がりましたが、その一方で、いつでもアクセスを停止される可能性があるというリスクも内包しています。そして、テスラのAIチームがよりパーソナライズされた学習型速度システムを推進すればするほど、自動運転システムに制限速度の厳格な順守を求める欧州規制当局との根本的な対立は深まるでしょう。この攻防は、大陸全体における自動運転技術の未来を大きく左右することになります。