しかし、この動きの背景には、EUによる前例のない規制の波がありました。
CBCommerceの会員資格は、欧州で事業を展開するトップクラスの小売ブランドやマーケットプレイスに限定されています。Temuはこの加盟により、業界の「外部の破壊者」ではなく「内部の協力者」としての立場を打ち出そうとしています。
問題はそのタイミングです。Temuは現在、EUから複数の規制措置を受けている真っただ中にあります。
Temuの欧州での存在感は急速に拡大しています。
TemuがCBCommerceに加盟した背景には、複数の規制措置が同時進行している状況があります。
約2億ユーロの制裁金(2026年5月)
欧州委員会は2026年5月、Temuに対しデジタルサービス法(DSA)違反で約2億ユーロ(約2億3200万ドル)の制裁金を科しました。違反内容は、プラットフォーム上の違法商品に関するシステムリスクの特定・分析・評価を怠ったことです。Temuは2026年8月28日までに改善計画を提出する必要があります。
超大規模オンラインプラットフォーム(VLOP)指定
TemuはDSAに基づく「超大規模オンラインプラットフォーム(VLOP)」に指定され、最も厳格な規制対象となっています。
消費者保護の要請
2024年11月、EUの消費者保護協力ネットワーク(CPCネットワーク)はTemuに対し、EU消費者法に違反する慣行の是正を求めました。
アイルランド拠点への立ち入り検査
2025年12月、欧州委員会はTemuのダブリン事務所を立ち入り検査。その後、EUの「外国補助金規制(FSR)」に基づき、Temuに対して意見陳述書(Statement of Grounds)を送付しました。Temuはこれに異議を唱えています。
2026年3月に合意されたEU関税制度改革(UCC改革)は、Temuのビジネスモデルにとって最も深刻な変化をもたらすものです。
この改革の核心は、EU域外からEU消費者への越境販売を仲介するECプラットフォームを、法的な「輸入者(importer of record)」とみなす点にあります。
欧州委員会はこれを「現在の関税システムからの大きな転換」と位置づけています。
1. レジティマシーの獲得
トップ欧州小売企業が集まる業界団体への加盟は、Temuが「破壊者」ではなく「業界の一員」として振る舞うというメッセージです。
2. 規制情報の収集
CBCommerceを通じて、「みなし輸入者」制度の実務的な解釈やベストプラクティスに関する初期情報を得ることができます。これは物流・コンプライアンス体制の適応に不可欠な情報です。
3. 先制的なコンプライアンス投資
Temuは、法廷闘争ではなくコンプライアンス態勢の整備に注力する姿勢を、規制当局や販売事業者に対して示しています。これにより、DSA違反で年間全世界売上高の最大6%に上る追加制裁金のリスクを軽減する狙いがあります。
4. エコシステムとの関係構築
加盟は「欧州の小売業者、オンラインマーケットプレイス、販売事業者との関係強化」を目的としており、Temuのネットワークを消費者直販モデルからより広範なECコミュニティへと広げるものです。
中国からEUへの越境B2C EC市場が2026年に1674億ドルに達する見込みの中、Temuにとって欧州市場は諦められる規模ではありません。CBCommerceへの加盟は、自らのビジネスを根本から変えるルールが作られるまさにその場に、自ら「中に入り込む」という計算された外交的動きといえるでしょう。