WSJは2026年7月30日、関係者の話として次のように報じた 。
中国事業はテスラにとって些細な存在ではない。上海ギガファクトリーは全世界のテスラ車の半分以上を生産しており、仮に分離が実行されれば、会社の根幹を揺るがす大規模な事業再編となる 。
マスク氏は迅速にこの報道を退けた。2026年7月31日、自身のソーシャルメディアでWSJの報道を「フェイクニュース」と非難 。テスラ中国も中国国営メディアに対して報道を否定した 。これにより、WSJが情報源に基づく報道を主張する一方で、マスク氏とテスラが否定するという、明確な対立構造が生まれている。テスラ、スペースXともに、マスク氏のSNSでの否定以外に正式な声明は発表していない 。
中国事業分離の話は、テスラとスペースXの合併可能性があってこそ筋が通る。そしてこの点について、マスク氏自身が驚くほど率直な発言をしている。
2026年7月22日のテスラ決算説明会で、マスク氏は両社の事業的重複(特に共同運営するAIチップ工場「テラファブ」)が拡大していることを挙げ、憶測をあおった 。具体的な合併計画についての言及は「適切な場ではない」としつつも、こう付け加えた。「今日の時点で、この2社が統合する確率は90%だ」。
これはCEOが単なる仮説について語る言葉ではない。マスク氏自身の90%という評価は、最も強気な予測市場の数字をも上回るものだ。
2026年7月30日~31日時点の予測市場では、合併発表の確率に幅が見られる。
これらの数字が示すのは、市場が2027年までの合併を現実的な可能性として捉えつつも、確実視するには至っていないという姿勢だ。
テスラとスペースXの関係強化を示す最も具体的な証拠は、公式のSEC提出書類に記されている。
スペースX S-1(2026年5月20日):IPOのための登録届出書の中で、テスラとの間で将来のテラファブ開発に関する「一般的な枠組み」に合意したと記載。個別プロジェクトは別途交渉とされた 。これは合併契約ではないが、両社が正式に共同作業を計画していることを示す。
テスラ Q2 2026 8-K(2026年7月2日):スペースXのIPO後、スペースX株式の評価益として10億ドルの純利益を計上したと開示 。この株式は、テスラのAI研究所xAIが2026年1月にスペースXに対して行った20億ドルの投資に由来する 。
重要なのは、合併に関するSEC提出書類は存在しないという点だ。両社ともに、合併に関する委任状説明書や合併契約書、スケジュール14Aなどを提出していない。取引の実現には、両社の株主投票が必要となる。
ウォール街のアナリストからは様々な意見が出ている。
現状は2つのレイヤーに分けられる。
中国事業分離の話は、WSJの情報源によれば現実味を帯びているが、マスク氏とテスラ中国は強く否定している。戦略的合理性(複雑な合併に先立つ地政学的リスクの回避)は理解できるが、全世界の生産量の半分以上を占める上海工場の売却やスピンオフは極めて困難な事業だ。
合併の話は、マスク氏自身(90%の確率と発言)、強気のアナリスト(アイブス氏、JPモルガン)、そして2027年までの統合に中程度から高い確率を割り当てる予測市場によって勢いづけられている。しかし、現時点で正式な取引プロセスが公開されているわけではない。SECへの提出書類も、合併契約も、取締役会の決議も存在しない。スペースXの好調な株式市場での評価額により財務的なメカニズムは改善したが、国家安全保障審査、中国問題、株主承認など、乗り越えるべき課題は山積している。
現時点で最も明確に言えることは、マスク氏が率いる2社がこれまで以上に事業的にも財務的にも緊密になっていること、そして統合の戦略的合理性が、真剣な関係者に実現可能性を探らせるほど強固なものであるということだ。実際に取引が成立するかどうかは、いかなるCEOの願望だけでは乗り越えられない、規制、政治、そして事業上の複雑な課題をいかに克服するかにかかっている。