危機発生前、世界のLNG供給は前年比約11%増が見込まれていたが、戦争の影響でその見通しはわずか1%増にまで落ち込んだ。カタール、米国など新規供給の一部が遅延、混乱、またはアジア向けに転用されているためだ。
2026年夏、欧州は4度目の熱波に見舞われ、ライン川の水位が記録的な低水準に達した。カウブ(Kaub)の重要隘路では、水位が7月28日に28cmまで低下(2018年以来の最低)、さらに24cm、場合によっては20cmに近づくとの予測が出ている。はしけは積載量の約20%しか航行できず、運賃は高騰。ドイツやスイスの発電所、産業施設への石炭、重油、原料の輸送が深刻な打撃を受けている。
2026年7月下旬時点で、EUのガス貯蔵量は約53~55%と、昨年同時期の約64%を大きく下回る。これは5年平均を約12~15ポイント下回る水準で、7月としては2021年以来の低さだ。7月初めの注入ペースは6年で最も遅く、エクイノールCEOは「欧州は冬前の80%貯蔵目標を達成できないだろう」と述べている。
オランダTTFガス先物(前月物)は7月20日に一時€60/MWhを突破し、7月29日には€61.63/MWhで取引された。これは1カ月前比で約37%高、1年前比で約75%高。スポット価格は6月の安値から50%以上上昇している。
一方、欧州委員会のガス調整グループは、2026年7月1日時点で「冬のガス供給の安全に当面の懸念はない」と公式に表明している。委員会は「需要破壊」「ホルムズ以外からのLNG輸入」「パイプライン代替」によってギャップを埋められるとの見解だが、市場参加者は「現在の注入ペースとアジアのスポット争奪戦を考慮すれば、危険なほど楽観的」と批判する。
ホルムズ封鎖(カタールLNG途絶)、世界的なLNG増産の崩壊(11%→1%)、ライン川の記録的低水位(カウブ約24~28cm)、そして貯蔵量の低迷(約53~55%)という複合的な要因が、冬前に埋めることのできない構造的な供給不足を生み出している。市場はTTFが€60/MWh超でこのリスクを価格に織り込み済みだ。危機が本格化するかどうかは、冬の気温、ホルムズ海峡の再開時期、そしてアジアのバイヤーが残りのスポットカーゴをどれだけ積極的に争奪するかにかかっている。